2020年7月、ニューヨーク証券取引所にオンライン保険会社のレモネードが上場した。ソフトバンクグループの出資先として知られる同社だか、株式会社にもかかわらず株主のために利益を稼ぐことだけに目を向けないと目録見書内で宣言し、上場したことで現地の注目を浴びた。それでも初値は50.06ドルと公開価格(29ドル)を7割も上回り、株価はその後70ドル前後と好調に推移し、投資家から支持されていることが分かる。

実はレモネードは一般的な株式会社ではなく、株主利益だけでなく社会や環境に関連する「公共の利益」の実現も明示した「パブリック・ベネフィット・コーポレーション(PBC)」という特殊な会社形態だ。日本ではあまり馴染みのないPBCだが、アメリカでは一部の州で法的に認められている。レモネードでは加入者が負担する保険料から一定の手数料を取り、必要な保険金の支払いを行った上で、余ったお金は顧客が指定する慈善団体に寄付する。

こうした企業が受け入れられる背景には、前回紹介した「ESG」だけでなく、近年よく聞くようになった「SDGs(エスディージーズ)」の視点を盛り込む投資家意識の変化がある。

SDGsは企業・個人含めた全ての人が取り組む課題

SDGsは2015年9月、国連で採択された「持続可能な開発目標」を指す。内容は貧困や雇用、気候変動など環境・社会問題を解決するための17の目標と、さらに各目標を具体的な行動に落とし込んだ169のターゲットで構成される。2017年には、タレントのピコ太郎が外務省からSDGs推進大使に任命され、SDGs版の「PPAP(ペンパイナッポーアッポーペン)」の動画を作成して話題にもなった。

SDGsは特定の人もしくは企業のみが達成すべき目標ではなく、対象を地球上に住む全ての人と定義している。

個人ができる取り組みとしては、例えば「エコバッグやマイボトルを持ち歩く」「節電や節水を心がける」などが思いつく。環境負荷の高いプラスチック製の買い物袋の利用を制限しようと、2020年7月1日から小売店で義務化されたレジ袋有料化も、SDGsに関連した取り組みの1つと言えるだろう。

企業でもSDGsへの意識は高まっており、2020年6月に帝国データバンクが行った調査によると、4社に1社がSDGsを意識した企業活動に取り組んでいるという。同調査では、SDGsの達成に向けて取り組みたいテーマとして「顧客・人財確保(33.8%)」や「適正な労働時間・環境・内容(30.0%)」など、人に配慮した活動が多い結果となっている。SDGsへの対応は、企業の社会的評価を向上させる手段としても必要になりそうだ。

さらに、SDGsの視点を企業評価に加える機関投資家も増えている。例えばオランダの公務員年金基金ABPは、2025年までに運用資産の2割をSDGsに貢献する企業に投資する目標を掲げている。また国内でも日本生命保険はSDGsに配慮した経営を行うだけでなく、ニッセイアセットマネジメントが運用するSDGs 社債ファンドへの投資などを通じて、持続可能な開発目標の達成を後押しする。