ファンズ代表の藤田氏の経歴を見ると、もともと金融業界出身だったわけではない。サイバーエージェントを経て2007年にマーケティング支援事業を行う会社を創業し、上場企業へ売却した経歴を持つ。
「2007年に創業した会社は、6年ほど運営しました。なかなか思うように成長できない歯がゆさもありましたが、なんとか上場企業に売却というかたちで着地させることができました。当時、成長していたほかのスタートアップを見て改めて気づいたのは、『誰がやるか』より、『マーケットの選定』と『参入のタイミング』が重要だということ。売却後もこの2つの視点で次の起業のタネを探していました」。
2019年7月に開催された「Infinity Ventures Summit 2019 Kobe」のプレゼンコンテストで優勝
(写真中央が藤田氏)
安定的に運用したいという投資家のニーズに応える
そして起業のアイデアをリサーチするなか、米国で金融機関を介さない融資の方法としてソーシャルレンディングが盛り上がっているという記事を偶然見かけた。ただ、藤田氏自身は当時、まだ高度な金融知識はなかったため、いきなり事業を始めるわけにはいかなかったが、「たまたまご縁があって、日本でソーシャルレンディング事業の立ち上げをするという方から、マーケティング担当として参画しないかとオファーをいただきました」と話す。
こうして、初めて金融業界に足を踏み入れた藤田氏。銀行を介した間接融資だけではカバーしきれない部分を補う新たな手段として、可能性を感じたという。
ただ、3年ほど事業に携わる中で課題も見えてきた。
「当時、ソーシャルレンディングを利用して融資を受けるのは中小・零細企業が中心でした。投資家にとっては高い利回りを期待できる一方、信用リスクの高い投資先も含まれている。サービスを利用している投資家にインタビューを行うと、確かに高リスク・高リターンを狙って投資したい方もいましたが、リスクを抑えて運用したいという方も少なくありませんでした。そのためソーシャルレンディングの仕組みはそのままに、『安定的に資産運用を行いたい』というニーズに応えるサービスがあれば利用してくれるのではないか。この仮説が、今のFundsにつながります」。
また藤田氏自身、金融業界にどっぷり浸かっていなかったため、投資初心者の目線も持ち合わせながらサービスの設計を考えることができた。
「特に株式投資などはチャートを見ないといけなかったり、ファンダメンタルズの分析を行わないといけなかったりと、初心者の方にとってはやはりハードルが高い。もう少しシンプルな仕組みにすれば、利用する人は増えると考えていました。それこそ定期預金に近いような、安心して投資をできるサービスなら、気軽に始めてもらえるのではないか。金融業界出身ではないからこそ、ユーザー目線でアイデアを考えられたことも、Fundsの設計思想につながっています」。
そしてアイデアをFundsというサービスに落とし込むために、現在のファンズの前身となるクラウドポートを立ち上げた。
しかし、事業がすぐに軌道に乗ったわけではない。
複数の投資家から資金を集めるファンドを販売するためには、第二種金融商品取引業の登録を受ける必要がある。つまりこのライセンスを取得しなければ、いつまで経ってもサービスを開始できない。金融業ならではの規制が立ちはだかったわけだ。
「社内体制や規定を整備した上で、登録の申請を行いました。当初は7、8カ月で終わると思っていましたが、実際には1年半かかり、その間はサービスを始められない。一方で、人件費などのコストは発生する状態。いつ登録が終わるのか分からないため、本当に暗闇の中を歩いているような状況でした」。
ただ後から振り返れば、サービスを始める入口で厳しい審査を受けたことで、つめが甘かった部分を見つめ直し、事業を洗練させる契機になったとも藤田氏は話す。ユーザー側からすると、金融業参入のハードルが高いからこそ、結果的に個人投資家が安心してお金を預けられる一助になっているとも受け取れる。
何よりも「コンプライアンスファースト」な運営体制
また、特にコンプライアンスが重視される金融業では、スタートアップの強みの1つでもある「速さ」が失われかねない面もある。事業を実行するスピードとのバランスを、藤田氏はどう捉えているのか。「もちろんスタートアップにはスピードが不可欠ですが、やはり金融の領域では、スピード以上にコンプライアンスが重要だと考えています」。
ファンズでは行動規範として「コンプライアンスファースト」を掲げている。スタートアップである前に金融業である意識を強く持ち、社員に対してもコンプライアンスが最優先である旨を常に伝えているという。
コンプライアンスファーストを社内に浸透させるため、内部監査の体制も整えている。スタートアップにもかかわらず、近年、金融機関や上場企業を中心に取り入れられている「3つの防衛線(組織を現業部門・管理部門・内部監査部門の3つに分類し、リスクを管理すること)」の考え方に従っているわけだ。
なぜここまで、コンプライアンスにこだわるのか。
「多額の資金を調達しながらも法令違反を犯し、結局サービスがストップしてしまった複数の例を見てきたことがきっかけですね。どれだけ事業が成長しても、重大な法令違反があれば、それだけで企業はダメになってしまう。いわば一発アウトです。それは絶対に避けなければいけません」。
このコンプライアンスファーストな運営体制が、投資家にとっては安心して利用できるサービスの基盤となっているのは言うまでもない。