周囲と比べていた自分に気づく母
「やっぱり、悠真は塾が楽しかっただけじゃないか?」
「でも、まだ小さいんだから、親が進路を考えてあげないと」
「それはそうだけど、本人が受験したがってるとは言えないだろ」
ひかりが反論できずにいると、尊は地元中学校について自分でも調べたと話し始めた。
「ひかりの言ったとおり、昔は荒れてた時期もあったらしい。でも、今はだいぶ違うみたいだぞ」
「そうなの? ネットには悪い口コミがたくさんあったけど……」
「それ、結構前の話じゃないか? それに、悠真が中学生になるころには、また状況が変わってるかもしれないだろ」
スマートフォンを手に取ると、確かにひかりが読んだ口コミは、何年も前のものが多かった。
「どうしても心配なら、中学受験を考えてもいいんじゃないか?」
「でも、周りのママ友たちもみんな受験の準備を進めてるし……」
「ほかの家が受験するからって、それに合わせる必要はないだろ」
その言葉に、ひかりははっとした。
思えば、受験を意識したきっかけはママ友たちとの会話だった。自分だけ何も知らなかったことが恥ずかしく、話についていけなくなるのが怖かった。息子の将来を心配する気持ちは本物だったが、そこには自分の見栄も混じっていたのだ。
しばらくして悠真が昼寝したのを確認すると、ひかりは尊に小声で話しかけた。
「私、周りと比べて焦ってたみたい。悠真のためだと思ってたけど、本当は自分が取り残されたくなかったのかも」
「そうか。それで、今はどう思ってるんだ?」
「悠真本人が望んでない以上、無理に勧めるのは違うと思った。私立のよさはわかったけど、今すぐ決めなくてもいいよね」
「そうだな。必要になったら、そのとき考えよう」
ひかりは静かにうなずき、ソファにもたれた。尊と並んで悠真の寝顔を眺めているうちに、このところ胸の内にくすぶっていた不安や焦りがゆっくりと晴れていくのを感じた。
