息子は本当に受験したいのか
休日の昼下がり、ひかりが洗い物を終えてリビングに戻ると、尊がソファから声をかけてきた。
「ひかり、今ちょっといいか?」
「うん。この前の話?」
「そう。悠真と3人で話さないか?」
「……分かった。悠真、ちょっとこっち来て」
床に寝そべって遊んでいた悠真が顔を上げた。ひかりが尊の隣に座って手招きすると、おもちゃを手に持ったまま駆けてくる。
「なあにー?」
「悠真、この前の塾の話、パパにもしてあげてくれる?」
「塾?」
「体験授業、ママと行ってきたんだろ? 楽しかったか?」
「あ、うん! 楽しかったよ! カードのゲームもした!」
尊は軽くうなずいたあと、自分の足の間ではしゃぐ悠真をソファに引き上げた。
「悠真、受験って知ってるか?」
「知ってるよ。受験ってテストのことだよね? ママ?」
「そう、正解。よく覚えてたね」
「だってね、綾人くんと慧くんがね、受験するって言ってたから」
ひかりが頭をなでると、悠真は少し照れた様子で幼稚園の友だちの名前を口にした。続いて尊がスマートフォンを取り出し、私立小学校のホームページを開いて見せた。
「悠真も受験、してみたいか? ママは、この学校がいいんじゃないかって」
「うーん、わかんない」
「ほら、こういう制服を着て学校行くんだよ。かっこいいでしょう?」
ひかりも自分のスマートフォンを悠真の前に差し出す。
「うん、かっこいい! 僕、ランドセルは青にする!」
「あ、そっか、青いランドセルか……ちょっと待ってね」
「私立なら指定のランドセルがあるんじゃないか」
「うーん……そうだね。指定カバンが決まってて、色は全員黒だって。でもママは、黒も……」
「じゃあ、受験しなーい」
悠真はそう答えると、ソファから飛び降りて再びおもちゃで遊び始めた。ひかりは静かに息を吐いて、持っていたスマートフォンを置いた。
