妊娠中の妻に救援を求める健也

「頼むよ」と繰り返す健也の声を聞きながら、朝美はゆっくりと息を吐いた。

妊婦健診の約束を破り、オクトーバーフェストを優先した健也。その後も反省するどころか、飲み歩く回数は増える一方だった。ここで朝美が迎えに行けば、いずれまた似たようなことが起きるだろう。

今回は自分で後始末をしてもらおう。

そう決めた朝美はスマートフォンを持ち直し、落ち着いた声で答えた。

「迎えには行かない」

「えっ? なんでだよ!」

「何時間かかっても、歩いて帰ってきて」

「はあ⁉ 何言ってるんだよ! こっちは県外にいるんだぞ!」

健也は声を荒らげたが、朝美は慌てなかった。財布もスマートフォンもないのは大変だろうが、だからといって妊娠中の自分が迎えに行く理由はない。

「朝美、冗談言ってる場合じゃないんだよ。金もないのに、どうやって帰れっていうんだ?」

「だから、歩いて帰ればいいじゃない。その間に、少しは反省したら?」

「反省って、何をだよ!」

「この前の妊婦健診のこと、もう忘れたの?」

健也は一瞬黙り込んだ。

「……あれは謝っただろ」

「口だけでしょう? 結局、オクトーバーフェストに行ったじゃない。それに最近は前より飲みに行く回数が増えてるし、全然反省してないよね?」

「こんなときに持ち出す話かよ!」

朝美は小さくため息をついた。