心配する朝美に謎の電話

その日も、朝美はいつものように夕食を済ませて先に寝ることにした。どうせ健也が帰ってくるのは、日付が変わるころだろう。

ところが翌朝、目を覚ましても健也の姿はなかった。

「あれ? ……いない?」

寝室にもリビングにも、帰宅した形跡がない。スマートフォンを確認しても、健也からの連絡はなかった。

朝美はリビングのソファに座り、スマートフォンを見つめていた。何度か電話をかけてみたが、つながらない。飲みすぎてどこかで寝ているだけならいいが、事故にでも遭っていたらと思うと落ち着かなかった。

そのとき、突然スマートフォンが鳴った。画面には見知らぬ番号が表示されている。朝美は少しためらってから電話に出た。

「……はい、もしもし?」

「あっ、朝美! 俺だよ、健也!」

「健也? 無事なの? どうして知らない番号からかけてるの?」

「ちょっと事情があってさ。近くにいた人に携帯を借りてるんだ」

聞き慣れた声に、朝美はひとまず安心した。しかし、健也は焦った様子で話を続けた。

「実は、昨日飲みすぎちゃってさ。困ったことになってるんだよ」

「何があったの? 今どこにいるのよ」

「それがさ、電車で寝過ごして、終点まで来ちゃったんだよ」

「終点まで気付かないなんて、どれだけ飲んだのよ」

「いや、俺もよく覚えてないんだよ。友達と別れて電車に乗ったところまでは覚えてるんだけどさ」

健也によると、帰りの電車で眠り込み、気づいたときには見知らぬ終着駅に着いていたという。しかも、改札を出たあと、そのまま駅前で寝てしまったらしい。

「それで、朝になって通りかかった人に起こされたんだけどさ。起きたら財布もスマホもなくなってたんだよ!」

「えっ、全部?」

「そうなんだ。どこでなくしたのかも分かんないし、誰かに盗まれたのかもしれないし…」

どうやら、健也を起こしてくれた人が携帯電話を貸してくれたらしい。

朝美は呆れて言葉を失った。無事だったのは何よりだが、泥酔して乗り過ごしたうえ、所持品まで失うとは。

「信じられない……今は駅にいるの?」

「駅の近くにいるんだけど、周りに何もなくてさ。タクシーも見当たらないし、金もスマホもないから帰り方も調べられないんだよ」

「それで?」

「それで……悪いんだけど車で迎えに来てくれない?」

「私が?」

「ほかに頼れる人もいないしさ。ちょうど会社も休みだし、車で来られるだろ?」

朝美は思わず時計を見た。今から県外の知らない駅まで迎えに行くとなれば、往復でかなりの時間がかかるはずだ。

「私、妊娠中なんだけど分かってる? 妊婦にそんな遠くまで迎えに来いって?」

「分かってるよ。でも、俺だって困ってるんだって。1人じゃどうしようもないんだよ」