息子の期待に応えたかった父

悠真に褒められて清志もまんざらではなさそうな顔をしていた。鼻の頭をすりむき、全身砂だらけになっているが、そんなことも気にしていない様子だった。

それから悠真は自分の競技のために保護者席から離れて、グランドに向かっていった。陽子は絆創膏を清志に渡した。

「はい、これ。鼻のところすりむいてるから」

「ああ、ありがとう」

「ちゃんと走れてたね。びっくりしたよ」

陽子の言葉に清志は照れくさそうに笑った。

「いや、ちゃんとトレーニングしておけば良かったんだけど、全然やれてなくてさ。でも陽子から悠真の期待を裏切るようなことはしないでって言われたから、慌てて動画で速く走る方法を見て、それをまねしてやったんだ」

「あ、そういうこと。私たちにバレないようにめちゃくちゃトレーニングしてたわけじゃないんだ」

「いや、やっぱりしんどいからできなかった」

清志は苦笑いを浮かべながら答えた。

少しだけ見直したのだが、思い違いだった。ただ、息子のためになんとかしようという清志の気持ちはしっかりと伝わってきた。

「まあ悠真も満足そうだし、それはそれでいいんだけど」

「ああ。ほっとしたよ」

「でもせっかくシューズとかトレーニングウェアとか買ったし、ジムだってお金を払ってるんでしょ? だったらそれを無駄にしない程度に運動はしてよね」

陽子の言葉に清志は顔をしかめた。

「ええ、もういいだろ?」

「ダメよ。太ったりしたら悠真から嫌われるわよ? それでもいいの?」

「……分かったよ。ちょっとずつやっていくから」

渋々うなずく清志をよそに午後の競技が始まり、陽子は再びグランドにカメラを向けた。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。