衣装を完成させた義母へ

学芸会当日の朝、未来は落ち着かない様子で、完成した衣装を何度も眺めていた。沙織も髪を整えたり持ち物を確認したりと慌ただしかったが、数日前までの焦りが嘘のように気持ちは軽い。頼子もすでに支度を終え、玄関にバッグを置いている。そこへ健太が上着を羽織って現れた。

「じゃあ、そろそろ出るか」

沙織は静かに振り返って言った。

「観覧は私とお義母さんで行くから」

「え、俺は?」

健太は本気で意味が分からないという顔をした。

「だって観覧できるのは2人まででしょ。未来も、お義母さんに見に来てほしいって言ってたし」

「でも普通は父親が行くだろ」

不満そうな健太を見て、沙織は衣装作りで苦戦していた夜を思い出した。費用を出すのも嫌がり、自分は手伝いもせず、「専業主婦なんだから」と沙織に丸投げしたのは健太だ。

「あのね、お義母さんのおかげで衣装が間に合ったの。見てもらうのは当然でしょ?」

頼子も横から口を挟む。

「そうよ。今回はあきらめなさい。あんたは何もしてないんだから」

健太は何か言いたげだったが、結局それ以上は反論しなかった。沙織は少しだけ胸がすく思いがした。これくらいの仕返しなら、罰は当たらないだろう。3人で幼稚園へ向かうと、会場には色とりどりの衣装を身につけた園児たちが集まっていた。中には、ひと目で高そうだと分かる衣装もある。

しかし、沙織はもう以前ほど違いが気にならなかった。頼子と何度も縫い直し、形を整えた緑色の衣装は、未来の体にきれいになじんでいたからだ。

「未来、似合ってるわね」

「はい。ほんとに」

やがて幕が上がり、未来が舞台へ出てくる。練習してきた動きを精いっぱいこなし、覚えたセリフもしっかり口にしていた。沙織はスマートフォンを構えながら、思わず頬を緩める。

「よかった。ちゃんとできてる……」

「頑張ったのねえ」

隣の頼子も嬉しそうだった。演目が終わるころ、未来が客席へ目を向けた。沙織と頼子を見つけたのか、ぱっと顔をほころばせる。沙織たちも笑って小さく手を振った。

「ママー! おばあちゃーん!」

学芸会が終わって園庭へ出ると、未来が満面の笑みを浮かべながら2人のもとへ駆けてきた。

1歩踏み出すたびに妖精の羽が揺れ、薄緑の裾が秋の穏やかな日差しに照らされてきらめいていた。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。