会話もままならず放置されたまま30歳を迎える

母親はどうすればよいのか分からず、弘幸さんをなだめることしかできませんでした。そのような状況が数カ月ほど続いたあと、弘幸さんに混乱した様子は見られなくなりました。

その一方で別の症状が現れ始めました。物事に興味関心を示すことが少なくなり、テレビを見たり漫画を読んだりすることもしなくなったのです。喜怒哀楽の感情も乏しくなり、表情にほとんど変化が見られなくなりました。

母親は仕事も家事も一人でこなしており、時間にも心にも余裕がなかったので、あまり深く考えることはできませんでした。

「大人しくしてくれればそれでいい。しばらく休んでいれば回復するだろう」

そう自分に言い聞かせることが精一杯で、問題を先送りしてしまいました。

月日は流れ、弘幸さんは30歳になりました。抑うつ状態がさらに重くなってしまい、就労することもできず、家の中でひきこもったまま。

「もうこれは普通じゃない」

そう思った母親は、ここで初めて弘幸さんに精神科を受診するよう促しました。

しかし弘幸さんはこれを拒否。「そんなことはしたくない。俺の人生は終わってる。もう放っておいてくれ」と言われてしまいました。

40歳現在は動作がスローモーションのようにゆっくりに

治療も受けず、脳にダメージが蓄積してしまったせいか、40歳になった現在の弘幸さんは動作が非常にゆっくりになってしまったそうです。

椅子を引いてそこに座るまで1分以上かかってしまいます。腰をかがめて座るまでの動作が、まるで映画のスローモーションのようなのです。

その他の動作も非常に遅く、食事の際に箸を手に取るのも遅い。食べるのも遅い。母親の会話のキャッチボールもままならない。何をするにしても動作が非常に遅く、まるで高齢者のようです。

認知機能も低下してしまったようで、母親に「今日は何曜日だっけ?」「今日は何日だっけ?」と何度も質問をするようにもなってしまいました。

●障害年金の受給で生活を少しでも楽にしたい野上さん母子。しかし、そのためには高いハードルを乗り越えなければなりません。そして、動き出した母子を待ち受けていた“主治医の言葉”とは——。後編【「もっと早く動けばよかった」20年以上放置された40歳ひきこもり息子の異変…68歳母親が噛みしめた“痛恨の後悔”】で詳説します。

※プライバシー保護のため、事例内容に一部変更を加えています。