「命を狙われている」と怯えた様子で部屋に閉じこもる

ある夜、母親が仕事から帰ってくると、部屋のどこにも弘幸さんの姿が見えません。

床にはロングコートなどの洋服が散乱していました。

「まさか泥棒?」

母親は一気に血の気が引き、頭がくらくらしてしまいました。何度か深呼吸を繰り返し、幾分落ち着きを取り戻したあと、あらためて部屋の中を見渡してみました。洋服が散乱していること以外、部屋が荒らされた形跡はありません。

するとクローゼットの中からかすかに物音が聞こえてきました。

母親がおそるおそる扉を開けたところ、なんとその中で弘幸さんが丸まっていたのです。

「一体何があったの?」

母親は弘幸さんに理由を問いただしました。

「俺は命を狙われている。ここに隠れるしかない」

弘幸さんは心底怯えた様子でそう言ったのです。

母親は弘幸さんの背中をさすりながら「そんなことはないよ。大丈夫だよ」と何度も言い、弘幸さんを落ち着かせました。

しかし異変はこれだけでは終わりませんでした。

別の日には「テレビに盗聴器が付けられている」と言い出し、テレビのコンセントを抜いてしまうのでした。またある時は「働いていない俺をもうすぐ警察が捕まえに来る。今も外から俺の様子をずっと監視している」と言いました。

それからというもの、弘幸さんは部屋の窓を開けることもなく、昼間でも厚手のカーテンを閉め、電気もつけずに薄暗い自室で怯えているのでした。