「テーマ型ファンド」インデックスに見るテクノロジー関連の成長
2022年の調整局面を経て、世界株式市場は再び上昇軌道に復帰しています。代表的なベンチマークであるMSCIワールド指数(税引後配当込み・ローカルベース)を見ると、2023年に23.1%の急反発を記録して以降、2024年は21.0%、2025年は18.4%と、3年連続で力強い二桁成長を達成しました。この上昇を牽引した最大の要因が、2022年末のChatGPT公開に端を発する「生成AIブーム」と、それに伴うテクノロジー関連企業の躍進です。
2026年6月末時点におけるMSCIワールド指数のセクター別構成比を見ると、情報技術セクターが30.3%という圧倒的なウェイトを占めています。さらに構成銘柄の上位は、首位のNVIDIA(5.2%)をはじめ、Apple(4.8%)、Alphabet(4.2%)、Microsoft(3.0%)、Amazon(2.6%)、Broadcom(1.9%)、Meta(1.4%)など、「マグニフィセント・セブン」に代表されるAI革命の中核を担う巨大テクノロジー企業に集中しています。
投資信託には「テーマ型ファンド」と呼ばれる分類があります。これは、特定の技術革新や社会構造の変化、経済的なトレンド(=テーマ)に着目し、その恩恵を受けて将来的に高い成長が期待される企業群に投資するものです。当社では、主要な投資テーマを「テクノロジー関連」、「医薬・ヘルスケア関連」、「公益・インフラ関連」、「地球環境関連」の4つに分類し、各関連ファンドの平均的な運用成績を計測する『テーマ別インデックス』を開発しています。さらに、現在の市場の牽引役である「テクノロジー関連」については、より詳細に運用成績を計測・分析するため、以下の7つのサブテーマ(①通信・プラットフォーム、②電機・半導体、③AI・情報サービス、④宇宙・防衛、⑤自動化・ロボット・EV、⑥フィンテック・暗号資産、⑦テクノロジー総合)に細分化しています。
テクノロジー関連ファンドの運用成績と資金流出入動向
「テクノロジー関連」インデックスの運用成績を見ると、2022年まではMSCIワールド指数を下回る展開(アンダーパフォーム)が続いていました。しかし、2023年以降は同指数の上昇率を継続的に上回るようになり、近年の世界株式市場がいかにテクノロジー関連企業によって牽引されているかが読み取れます。なかでも、最も顕著な成長を遂げたのが「電機・半導体」インデックスです。AIブームやデジタル化の進展に伴う旺盛な半導体需要が大きな追い風となり、過去3年間の累積収益率は430%に達し、わずか3年で投資価値が5倍以上に拡大する驚異的なパフォーマンスを記録しました。この「電機・半導体」の突出ぶりが目を引く一方で、「通信・プラットフォーム」や「宇宙・防衛」、「フィンテック・暗号資産」といったその他のサブテーマもMSCIワールド指数を上回る堅調な推移を見せており、テクノロジーセクター全体の底堅さを裏付けています。
テーマ型ファンドインデックス 3年間累積収益率(2026年6月末現在)
半導体市場の「スーパーサイクル」とマクロ環境の変化
半導体業界には、歴史的に好況と不況の一循環(谷から次の谷まで)を約3〜4年周期で繰り返す「シリコン・サイクル」と呼ばれる波があると言われています。現在のテクノロジー関連企業の力強い成長は、株式市場がこの「現行サイクルの上昇局面」(2023年の底入れから2025年にかけての本格回復)をいち早く織り込んで動いた結果として捉えることができます。
従来の経験則に照らし合わせれば、2023年を底とした場合、2025年頃にはピークを迎え、2026年後半は本来すでに「下降局面」にある時期にあたると考えられます。しかしながら、生成AIブームがあらゆる産業や生活基盤を巻き込む「3つの巨大な需要」へと発展しつつあることを背景に、従来の3〜4年という周期の前提が変わり、今後はより長期的な「スーパーサイクル」へ突入するとの見方もあります。
半導体市場を支える3つの巨大需要
さらに、テクノロジー関連企業の成長を後押しするもう一つの巨大な潮流として、「地政学的な分断」とそれに伴う「サプライチェーンの再編」、そして「宇宙・防衛産業」の急拡大が挙げられます。米中対立などを背景に、米国や日本、欧州の各政府は経済安全保障の観点から「自国での半導体製造」に巨額の補助金を投じています。同時に、世界的な安全保障環境の悪化を受け、2024年における世界全体の軍事支出は前年比9.4%増となり、冷戦終結以降で最大規模の伸びを記録しています。当社が算出する「宇宙・防衛」サブテーマ・インデックスは、まさにこうしたマクロ環境の構造的な変化を的確に捉え、関連企業の運用成績を可視化するための有用なツールとなります。
テーマ型ファンドへ投資する際の注意点
投資信託におけるテーマ型ファンドは、そのわかりやすいストーリー性から資金を集めやすい一方で、長期的な資産形成の観点からは以下に挙げるような留意すべき点があります。
とくにテクノロジー分野のように、長期的な成長トレンド(ファンダメンタルズ)が本物であるからこそ、市場の期待が先行して株価が過熱しやすい側面があります。実際に直近7月の運用成績を見ると、「電機・半導体」インデックスは1か月間で20%下落し、テクノロジー関連ファンド全体の運用成績を示す「テクノロジー関連」インデックスは10%の値下がりを記録しました。このように、特定のテーマに集中投資するファンドは値動き(リスク)が非常に激しくなる傾向がある点には十分な注意が必要です。
テーマ型ファンドには、こうした過熱感に加え、構造的に以下のような3つの課題が存在します。
①ピーク時のファンド設定と「高値掴み」のリスク
テーマ型ファンドが企画・組成され、販売網に乗る頃には、すでにそのテーマが市場のコンセンサス(共通認識)となっていることが大半です。結果として、組み入れられる関連銘柄のバリュエーション(PER等)がすでに割高な状態から運用がスタートする「高値掴み」のリスクを抱えています。実際に、テクノロジー関連ファンドにおける運用成績と資金流出入の関係を表したチャートを見ても、大幅な資金流入があったタイミングが、結果的に当面の高値(ピーク)となっているケースが見受けられます。
②テーマの陳腐化・短命化
現在のAIブームのように長期的なトレンドを形成する例もある一方で、多くの場合、市場のテーマ展開は非常に速く、ブームが去るとファンドの基準価額は急落します。その後、市場の関心が新たなテーマへ移ることで長期にわたって低迷し、元の高値を更新できないまま「一過性の流行」に終わるケースも少なくありません。
③集中投資とスタイルドリフト
特定のセクターやマクロ要因に依存した投資となるため、分散投資によるリスク低減効果が十分に働きません。また、テーマに厳密に合致する有望な銘柄が少ない場合、ファンドの流動性を確保するために無理に周辺銘柄を組み入れざるを得なくなり、結果として当初の「テーマの純度」が低下してしまう(スタイルドリフト)という運用上のジレンマも発生します。
インデックスの変質と今後の市場モニタリング
現在、S&P500やMSCI ACWI(全世界株式)などの主要インデックスにおいて、テクノロジー関連企業(とくに巨大IT企業)の時価総額ウェイトは歴史的な高水準に達しています。これは、テクノロジーセクターの動向が市場全体に与える影響が非常に大きくなっていることを意味します。つまり、広く分散されたインデックスに投資していても、実態としてテクノロジー分野へのエクスポージャーが大きくなっている状況です。したがって、市場の先行きを占ううえで、AIの普及度や半導体サイクルの行方、巨大IT企業の決算および設備投資動向といった「テクノロジー・テーマの最前線」をウォッチすることは、今やすべての投資家にとって欠かせない要素となっています。また、市場の「過熱度」を測るうえでも、テーマ別インデックスの推移がマーケット平均(主要指数)からどの程度乖離しているかをチェックすることは有益です。
インデックスが一部の巨大企業に過度に依存している現在、市場の牽引役であるテクノロジーの行方と、資金移動の受け皿となるディフェンシブ分野(インフラやヘルスケアなど)の双方を、「テーマ」として解像度高くウォッチし続ける重要性は、かつてないほど高まっています。テクノロジーへの過度な集中リスクを適切に管理するためにも、広範なインデックスをコア(中核)資産としつつ、ディフェンシブ・テーマや新たな防衛関連テーマなどをサテライト(衛星)資産として機動的に組み合わせる「コア・サテライト戦略」の視点が、今後の資産形成においてより一層求められると考えます。
