80万円の返還を求める娘
親身に相談に乗ってくれた弁護士は、代理人として実代子との話し合いの場を設けてくれた。しかし、実代子は弁護士を交えた話し合いの場でも相変わらず不機嫌で、「生活のためだった」などと繰り返すばかり。具体的な説明をしようとはしなかった。
彩佳は弁護士と相談したうえで、80万円の使用目的を明らかにし、お金を返してもらうための裁判を起こすことにした。弁護士費用を考えれば、お金が返ってきたとしても、彩佳の手元にはほとんど残らない。それでも、子どもだからと搾取されていたかもしれない事実に目を背けて生きていくなんて嫌だった。
◇
判決が出てからしばらく、仕事を終えて会社を出た彩佳は実代子から電話がかかってきていたことに気が付いた。かけ直すと、実代子は挨拶もなしに「お金、振り込んでおいたから確認して」と言った。
「……分かった。ありがとう」
電話の奥で実代子が鼻で笑うのが聞こえてきた。
「まさか、育て上げた娘にこんなふうに恩を返されるとはね」
「私は別にお母さんを苦しめたいとか、責めたいとか、そんなつもりだったんじゃないよ。お母さんがちゃんとした対応をしてくれれば、こんなことにはならなかった」
「そうやって、何でもかんでも私が悪いってことね。今まで私が育てた恩とか、あんたは何にも感じてないってのが、今回のことでよーく分かったわ」
そう言って電話は切れた。
彩佳はスマホをカバンにしまって駅に向かった。電車に乗り込み、揺られながら、彩佳は窓の外に目を向けた。景色を見ているわけではない。ただ、実代子との関係が終わったことを考えていた。
