「莉緒、早くしないと遅れるわよ」
望海は部屋にいる9歳の娘、莉緒を呼んだ。すると部屋のドアが開き、ランドセルを背負った莉緒がゆっくりと歩きながら出てきた。夫の洋介と中学2年生になった長男の春樹は先に家を出ていて、あとは莉緒を送り出すだけだ。おっとりした性格の子なのだが、朝はもう少しテキパキ動いてほしいなと望海は思っていた。
「もうみんな、下で待ってるんじゃないの?」
望海の住むマンションや向かいの団地の子どもはマンションの下に集まり、集団登校をすることになっていた。
「うーん、そうかも」
そう言いながらも、莉緒はリビングで流しているテレビに意識が向き始めている。
「ほらほら、そんなことしてる暇ないって」
望海がため息をつくと、インターホンが鳴り響いた。モニター画面を確認すると、ドアから少し離れたところに褐色の肌の女の子が立っている。
「あなたが遅いから、エミリーちゃんがお迎えに来てくれてるわよ」
ぼんやりとしていた莉緒は笑顔になって、玄関まで駆けていき、ドアを開けた。
「リオ、おはよう!」
「おはよう、エミリー!」
エミリーは向かいの団地に住む女の子で、アメリカ人の父親と日本人の母親を持つ莉緒のクラスメイトだ。家では父親と英語で話すこともあるようで、ときどき莉緒にも英語を教えてくれているらしい。
望海が住む地域では、エミリーのようなミックスの子や海外にルーツを持つ子は珍しくない。町の郊外に大きな工業団地があり、近隣のアパートや団地には外国人の家族が多く暮らしている。
「じゃあ行ってきまーす!」
莉緒はエミリーと並んで歩いていく。2つのランドセルが揺れている光景を微笑ましく眺めながら、望海は見送った。その後、後回しになっていた自分の外出準備を始めた。
