料理は母親の役目なのか
日曜の昼前、キッチンでは颯太が冷蔵庫をのぞき、ハムとチーズを取り出している。
「颯太、何してるんだ?」
聡が眉をひそめると、颯太は得意げに振り返った。
「お昼作るんだよ。今日はホットサンドにする」
「自分でか?」
「うん、実験みたいで結構面白いよ」
聡は納得せず、鋭い視線を芽以へ向けた。
「10歳の子に何をさせてるんだ」
「聞いたでしょ? 颯太が料理したがるのよ」
「親なら、子どもの昼飯くらい作ってやるべきだ」
「私、もう昼ごはんは作らないって言ったよね」
「だとしても、適当に野菜を炒めるとか、麺をゆでるとかあるだろ」
芽以は聡を見返した。
「そう思うなら、聡が自分で作ってあげて」
「……わかった。颯太、今日はお父さんが作る」
「えー」
以前あれだけ芽以を責めた手前、作れないとは言えないのだろう。聡は不満げな颯太をキッチンから追い出し、渋い顔で冷蔵庫を開けた。しばらく中を眺めた末、焼きそばを作ることにしたらしい。ところが、いざ材料を準備すると、豚肉もキャベツも半端にしか残っていない。
「もやしって、なかったっけ?」
「昨日の夜に使っちゃったよ」
「これだと、3人分には足りないよな」
「他の野菜で代用したら?」
聡はたどたどしい手つきで野菜を切り、フライパンの上で麺をほぐし、調味料の量を何度も確認した。完成するまでに、かなりの時間がかかった。ようやく食卓に皿が並ぶと、颯太は一口食べて首を傾げた。
「味が薄い。それに野菜も固いし、麺もべちゃべちゃ」
悪気のない颯太の言葉に聡の箸が止まる。遠回しにおいしくないと言われたことがこたえたらしい。芽以は、胸がすく思いがした。
聡は何かを言い返しかけたが、結局黙って食べた。食後には、フライパンと包丁、まな板、3人分の皿が残った。聡が洗い物を終えたころには、相当な時間が過ぎていた。
「この前は言いすぎてごめん。本当に悪かった」
夜、聡が芽以に切り出した。芽以は黙って続きを待った。
「芽以は家にいるから、俺より楽だろうと思ってしまった。在宅の仕事もあるし、そのあとパートにも行くのに。料理まで芽以がやって当然だと思ってたんだ。今は反省してる」
「分かったなら、もういいよ」
不愉快な気持ちが完全に消えたわけではない。それでも、聡が自分で昼食を作り、文句を言われ、片づけまでしたうえでの謝罪だから素直に受け取れた。
「これからも、休みの日は俺が作るよ」
「え、いいの?」
「うん、颯太は不満だろうけど」
そう言って聡はスマートフォンを取り出し、レシピを検索し始めた。芽以はあれこれ思案する彼の横顔を、しばらく穏やかな気持ちで眺めていた。
