「大学へ進学することを条件に」
その条件とは「大学へ進学することを条件に、400万円を遺贈する」という趣旨だった。
文面を見る限り、翔太さんが大学進学という目標を達成した場合のご褒美として遺贈されるものだと推測できた。
明確な文面であり、親族間の争いのタネにはならないだろう。もしそう思った方がいたとしたら、失礼ながらその想定は甘いと言わざるを得ない。
実際、この一文が誰しも想像だにできないほどのひどい相続争いを招くことになる。
啓介さんが遠縁の翔太さんにわざわざ遺贈したのにはきちんとした理由があった。
翔太さんは小学生のころから中学2年生ごろまで引きこもりだった。周囲の視線に怯えて学校にも行けず、親戚の集まりにも顔を出せなかった。そんな翔太さんのことを、親戚一同は腫物のように扱っていた。
「あいつはまた来ていないのか」
「甘えているだけではないのか」
「将来どうするつもりなのか」
翔太さんのいないところでは、そんな心ない言葉が交わされることもあったと聞く。
そんな翔太さんも中学3年生になり、少しずつ外に出るようになっていった。高校にも合格し、国立大学を目指して猛勉強するようになっても、周囲の扱いは変わらなかった。
だが、啓介さんだけはその間もずっと翔太さんのことを気にかけていた。
私に遺言書の作成を依頼した際、啓介さんはこう言っていた。「翔太の大学合格を見届けられるか分からない。だから、せめて俺の死後もあの子の人生を応援できるようにしておきたい」と。
つまり「大学へ進学することを条件に、400万円を遺贈する」というこの文言は、翔太さんに対するご褒美というよりも、長年見守ってきた親戚への静かな応援の気持ちを、遺言書に書いたものだったのだ。
だが、この遺言書の条件によって、想定していないトラブルが起きてしまった。
●遺言書が招いたトラブルとは? 後編【「もう大学生になっているからダメ」と屁理屈を主張…数千万円を相続するはずの実子が「金の亡者」と化した背景事情】では、遺産分割協議書の重要性について解説します。
※プライバシー保護のため、事例内容に一部変更を加えています。
