失意の息子に届いた優しさ
そのとき、先ほどの駅員が戻ってきた。手には、小さな透明の袋を持っている。
「これ、前の鉄道イベントで子どもたちに配ったものなんです。少し余っていたので、もしよかったら」
袋の中には、金色に塗られた車掌バッジのレプリカが入っていた。
「本物じゃないけど、財布が見つかるまで、これを大事にしてくれるかな」
優は鼻をすすりながら、差し出された袋を両手で受け取り、しばらく見つめる。そして、小さくうなずいた。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
「本当にありがとうございます。お忙しいのに、すみません」
里奈は張り詰めていた気持ちが少し緩んだのを感じながら、何度も頭を下げた。
帰りの電車で、優はバッジを手のひらに載せて、じっと眺めていた。
「バッジ、つけてあげようか?」
「ううん。今はいい」
「そっか」
里奈は、長い1日の終わりに深く息をついた。疲れ切った身体に、電車の揺れが不思議と心地よく響いた。
思わぬ朗報
数日後の昼下がり、里奈のスマートフォンに鉄道会社から連絡が入った。優のものと思われる財布が、電車の中で見つかったという。終点で車内点検をした際、座席の近くに落ちていたらしい。
「優、お財布、見つかったって!」
里奈が伝えると、優は飛び上がるように立ち上がった。
「ほんと?」
「うん。受け取りに来てくださいって」
「どこの駅?」
「終点の駅だって。ここからかなり遠いよ」
駅名を聞いた優の顔が、さらに明るくなる。
「電車で行くの?」
「そうだけど、今回は財布を取りに行くのが目的だからね」
念を押しても、優はもう路線図を広げていた。
