<前編のあらすじ>
沙枝子は母・悦子から電話で、沙枝子の夫である和毅の実家とお中元・お歳暮を送り合ってきたが、今年はまだ品物が届いていないと聞かされた。両家の間だけで贈答が続いていたことを、沙枝子は初めて知る。
悦子は届かないことに腹を立てているのではなく、互いの負担になるならやめてもよいと考えていた。ただし、自分から一方的に打ち切ったと思われるのは避けたいため、今後の意向を確かめてほしいという。
事情を聞いた和毅は、母・紀江に直接電話する。すると紀江は、今年はあえて送っていないと答え、「あちらから送るべきだからよ」と鋭く言い放ったのだった。
●前編【「今年は送ってないわよ」お中元を突然やめた義母…夫婦を凍りつかせた「禁断の一言」】
お中元に潜んだ家格意識
和毅は眉を寄せながら、もう一度穏やかに尋ねた。
「やめたわけじゃないのか?」
「やめてなんかいないわよ。今年は福田さんのところから届くのを待っていたの」
スマートフォンから漏れる義母の声は、沙枝子の立つ流し台まで届いた。沙枝子は皿を拭く手を止め、和毅の方を振り返る。
「毎年毎年、こちらから先に送っていたでしょう。今年くらいは、あちらから届くかと思ったのよ。でも待つだけ無駄だったわね」
「何で怒ってるんだよ。沙枝子のお母さんは毎回ちゃんと返してくれてたんだろ?」
「返せばいいって話じゃないの」
義母は間を置かず言い切った。
「普通はね、妻側の実家から嫁ぎ先に向けて『娘をよろしくお願いします』って、先にご挨拶するものなのよ。それを、こちらから送らなければ何もしないなんて、礼儀を知らないにもほどがあるでしょう」
沙枝子は思わず顔をしかめた。
母は、届いた品を放っておいたわけではない。毎回、失礼のないよう同じくらいの品を選び、きちんとお返しをしてきた。今年も勝手に打ち切らず、今後どうするのか確認しようとしている。
「何だよ、それ。そんな決まり、聞いたことないけど」
和毅の声には戸惑いがにじんでいた。
「あなたが知らなくても、そういうものなのよ」
義母にとっては、説明する必要すらないほど当然の常識らしい。だが、それを周りも同じように知っているはずだと決めつけ、不満をため込んでいたことに、沙枝子は納得できなかった。
