「個人的にお祝いさせてもらいたい」
絵里は決意を固め、正直に、しかし感情的にならないよう言葉を選んで返信した。
『心配してくれてありがとう。体調は大丈夫だよ。ただ、最近お祝い事が続いて、自分の生活費や将来のための貯金とのバランスが難しくなってきちゃって。これからは無理のない範囲で、個人的にお祝いさせてもらいたいなと思って、今回は辞退させてもらったの』
送信したあと、絵里はスマホを画面が見えないように伏せ、深く息を吐き出した。喉の奥につかえていた冷たい塊が、ようやく消えたような気がした。
美香からの返信は、数時間後に届いた。
『そっか。気づけなくてごめんね。無理させてたんだね。里香には、私からうまく言っておくよ』
トーンは優しかったが、どこか距離を感じる文面だった。
その後、グループLINEは里香へのプレゼントの話題を再開したが、絵里が発言することはもうなかった。美香たちは絵里に気を遣ったのか、あるいは「価値観の違う人間」として少し距離を置き始めたのか、個別の連絡も目に見えて減っていった。
無理のない金額で手紙とギフトを贈ることに
数週間後、絵里は里香の自宅へ、手書きのお祝いカードと、彼女が好きなハーブティー(1,500円ほどのもの)を郵送した。里香からはすぐに『温かい手紙、すごく嬉しかった! 落ち着いたら赤ちゃんに会いに来てね』と、心のこもった個別のメッセージが届いた。
それを見たとき、里香の胸にすとんと落ちるものがあった。
友人を祝福する気持ちは、誰かに決められた金額や、グループの足並みを揃えることで測るものではない。自分の生活を犠牲にして差し出す「5,000円」よりも、自分の身の丈に合った「1,500円」と手紙のほうが、ずっと誠実で、温かい気持ちを保っていられる。
あのLINEグループ内の友達とは、少し距離ができてしまったかもしれない。けれど、絵里の心は驚くほど軽かった。
浮いたお金で、彼女は気になっていた本を買い、少し上質なドリップコーヒーを淹れた。自分の人生の手綱を、他人の目線ではなく、自分の手でしっかりと握り直したような、静かな充実感が部屋を満たしていた。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
