誤解が解けて…

自分を悲しませたくなくて、この子は夜の境内に戻ったのだ。黙っていると青年が静かに続けた。

「1人で探していたので、そのままにするのは危ないと思って……一応、神社の係の人にも声をかけました。うちの屋台の者にも、見かけたら教えてくれって頼んであります」

「それで、一緒に……」

「はい。手を繋いでたのは、下駄の鼻緒が切れて転びそうだったから。抱っこするのは、さすがにまずいと思って……」

玲美ははっとして萌絵の足元を見た。片方の下駄の鼻緒がゆるく外れかけ、足の指のあたりが赤くなっている。それを見た途端、玲美は、急に先ほどの剣幕が恥ずかしくなった。話も聞かずに一方的に青年を疑い、詰め寄ってしまった。

「あの、失礼なことを言ってすみませんでした」

玲美は深く頭を下げた。

「いえいえ、お気になさらず。お母さんなら心配して当然です」

青年は穏やかに言った。落ち着いた声色に、玲美の張りつめていた心が少しほどけた。

「ありがとうございます。でも、もう遅いですし、かんざしはまた明日にでも……」

そのとき、屋台の方から中年の男性が小走りで近づいてきた。

「おーい、これじゃないか」

男性の手には、薄桃色の飾りがついたかんざしがあった。土で少し汚れていたが、花の細工は壊れていない。

「笹飾りの下の溝の近くに落ちてたよ。暗くて見えにくかったんだな」

萌絵の顔がくしゃりとゆがんだ。

「それ……それです」

玲美はかんざしを受け取り、指先でそっと汚れを払った。

「みなさん、本当にありがとうございます。ご迷惑をおかけしました」

玲美は青年にも、見つけてくれた男性にも、もう一度深く頭を下げた。萌絵も涙をこらえながら、小さな声で「ありがとうございました」と言った。

「無事に見つかってよかったです。気をつけて帰ってね。バイバイ」

青年はそう言って、萌絵に小さく手を振った。萌絵は玲美の後ろに半分隠れながら、両手でかんざしを握りしめていた。

「バイバイ」

か細い声だったが、ちゃんと届いたらしく、青年は穏やかにうなずいた。