<前編のあらすじ>

玲美は小学3年生の娘・萌絵に浴衣を着せ、亡き母から譲られた大切なかんざしを挿して七夕まつりに送り出した。初めて子どもだけで祭りに行く萌絵とは、門限を8時と約束し、少し不安を覚えながらも娘の成長を見守ることにする。

しかし約束の8時を過ぎても、萌絵は帰宅しない。電話してもつながらず、不安を募らせた玲美は、一緒に祭りへ行った友達の母親に連絡を取る。そこで、萌絵が落とし物を探すため、1人で祭り会場へ戻ったと知らされる。

玲美は慌てて神社へ駆けつけ、必死に娘を探し回る。ようやく見つけた萌絵は、夜の脇道で見知らぬ青年と手をつないで歩いていた。玲美は強い恐怖と怒りに襲われるのだった。

●前編【「無事ていて」七夕まつりで消えた小学3年の娘…母が夜の境内で凍りついた“まさかの光景”

娘の手を引く男とは

「萌絵!」

思い切り叫ぶと、声が裏返った。萌絵がはっと顔を上げる。

「ママ……!」

玲美は無我夢中で駆け寄り、萌絵の腕をつかんで自分の方へ引き寄せた。萌絵の体が小さくよろめく。玲美は細い肩を抱き寄せ、青年を睨みつけた。

「娘に何をしているんですか」

自分でも驚くほど低い声が出た。青年は目を見開き、すぐに両手を上げた。

「待ってください。僕は怪しい者じゃありません」

「じゃあ、どうしてこの子と手を繋いでいるんですか。こんな人のいないところに連れてきて……」

萌絵を抱きしめる玲美の手は震えていた。青年は困ったように眉を下げて言った。

「この子が落とし物を探すのを手伝ってたんです」

「落とし物?」

玲美ははっとして我に返った。気が動転していて忘れていたが、あの母親も同じことを言っていた。

「萌絵、どういうこと」

「ママ……ごめんなさい」

萌絵は巾着を両手で握りしめたまま、わっと泣き出した。その様子を見た青年が、静かに言った。

「ちゃんと説明します。だから、聞いてもらえますか」

玲美は萌絵の背中を擦りながら、ぎこちなくうなずいた。冷静にならなければと思うのに、心臓はまだ激しく鳴っている。青年は、玲美たちから1歩離れ、屋台の並ぶ方を指した。