見つけた先の悪夢
電話を切ったあと、玲美は財布とスマホだけをつかみ、玄関へ走った。サンダルを突っかけ、鍵を手に取る。扉を開けると、湿った夜風と祭りの喧騒が一気に流れ込んできた。夜の祭り会場に、萌絵が1人で戻ったと考えた途端、血の気が引いた。
迷子になっていたら。転んでいたら。知らない人に連れて行かれていたら――。悪い考えばかりが、次々に浮かんでくる。
「萌絵、無事でいて……」
玲美は鍵をかける手ももどかしく、神社の方へ駆け出した。遠くに揺れる七夕飾りが、今はただ憎らしく思えた。
◇
玲美は息を切らしながら、参道の入口に駆け込んだ。頭上には色とりどりの短冊が揺れ、提灯の明かりが夜風ににじんでいる。
「どこにいるの……」
ずらりと並んだ屋台は、どこも片づけに入っていた。焼きそばの鉄板を拭く音、たこ焼きの舟皿を重ねる音、店じまいを急ぐ大人たちの声が飛び交っている。
「萌絵!」
玲美は人の流れを縫うように進みながら、何度も名前を呼んだ。白い浴衣姿の女の子を見かけるたびに足を止める。髪飾りを見て、背丈を見て、違うと分かるたびに胸が締めつけられた。さっき電話で聞いた言葉が、頭の中で何度も繰り返される。どうして止めてくれなかったのかと思いかけて、すぐに打ち消した。誰かを責めている場合ではない。今は萌絵を見つけることだけを考えなければ。
「ここにもいない……」
境内の中央まで来ても、萌絵の姿はない。玲美は社務所の方へ目を向け、それから屋台の裏手へ続く細い脇道を見た。人通りは少なく、提灯の明かりも届きにくい。
その奥に、小さな浴衣姿が見えた。一瞬、体中の力が抜けそうになった。
「萌絵……」
呼びかけようとした次の瞬間、玲美は硬直した。萌絵は、見知らぬ青年と手を繋いで歩いていたのだ。玲美は血が逆流するような恐怖と怒りを覚えた。
●初めて子どもだけで七夕まつりに出かけた萌絵は、母・玲美との約束の時間を過ぎても帰ってこなかった。祭り会場へ駆けつけた玲美が目にしたのは、見知らぬ青年と手をつなぐ娘の姿だった…… 後編【七夕まつりで帰らない娘を探しまわった母が震撼…脇道で手を引いていた“青年の正体”とは】にて、詳細をお伝えします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
