息子の部屋に残された小さな宝箱

「ふぅ、これでやっと片付くかな……」

初夏の柔らかな光が差し込むリビングで、高橋美穂(45歳)は大きなダンボール箱を前に息をついた。一人息子の蓮が今春から都内の大学に進学し、実家を出て寮生活を始めている。すっかり静かになった子ども部屋を整理していて見つけたのが、この一箱だった。

中には、蓮が幼い頃に夢中で遊んだ木製の知育玩具や、何度も読み聞かせた絵本が詰まっている。どれも落書きや小さな傷があるものの、大切に扱っていたため、まだ十分に使えるものばかりだ。捨てるにはあまりに忍びない。そう思った美穂は、数日前から始めたフリマアプリに出品してみることにした。

しかし、現実はそう甘くはなかった。

「知育玩具と絵本をセットで出品するとして、送料が750円、専用のダンボールと梱包材で100円。それに手数料が10%でしょ。売値を1,500円に設定しても、手元に残る利益はたったの数百円か……」

スマートフォンの画面で計算を弾きながら、美穂は小さくため息をついた。商品の写真を様々な角度から撮影し、傷のある部分を細かく説明文に書き起こす。質問が来れば丁寧に返信し、売れたら売れたで頑丈に梱包してコンビニへ持ち込まなければならない。

費やす時間と労力を考えれば、時給換算で完全に赤字だ。リサイクルショップにまとめて数百円で引き取ってもらった方が、よほど効率的だったかもしれない。「なんだか割に合わないな」という思いが、胸の内でじわじわと広がっていった。