夫の言葉にあふれ出す感情

健介の言葉に恵美香は衝撃を受けた。恵美香は拳を握りしめて健介を見た。

「……別に私だって仕事をしてお金を稼ぎたかったよ。でもあなたが私に専業主婦になってくれってお願いをしてきたんでしょ……⁉ 家族のためだから私はその願いを受け入れて仕事を辞めたんだよ……!」

恵美香の中にくすぶっていた不満が一気にあふれ出てきた。恵美香の言葉を聞いて健介は焦ったような反応をした。

「あ、いや、そ、それはもちろん感謝はしてるけど……」

「だったら俺が稼いでるなんて言葉は出てくるはずない……! 私だって自分でお金を稼いで家計を支えつつ、自分の好きなことをめいっぱい楽しみたいわよ……!」

健介はばつが悪い顔をして頭を掻いた。

「……ごめん。言い過ぎたよ。お金はちゃんと返すから」

しかし怒りに満ちていた恵美香は健介の謝罪を受け入れることができなかった。

「今日はもう話したくない」

それだけ言って、恵美香は寝室に向かい、扉を閉めて、ベッドに座り、両手で顔を覆った。腹が立って仕方なかった。勝手に貯金箱のお金を使ったことや俺の稼いだ金だと言われたことなど頭の中で健介を責める言葉がどんどん湧き上がっていた。

その日、恵美香は寝室を一度も出なかった。そして健介も寝室に入ってくることはなく、恵美香は1人でベッドに横になったが、怒りでなかなか寝付くことができなかった。結局ほとんど眠れないまま夜が明け、恵美香は陽奈のために朝食を準備しようとリビングに向かった。

リビングのソファでは健介が横になっていて、恵美香はそれを無視して台所に行った。朝食を作る前にちらりと貯金箱を入れている吊り戸棚に目を向けた。一晩中燃えていた怒りは少しだけ収まっていた。

代わりに恵美香の中で別の疑問が浮かんできた。

どうして500円貯金なんてしていたのだろう。

旅行がしたいとか、大きな買い物がしたかったわけではない。使っていたのは主に家族のためのものだった。なのに貯金箱の中にお金が増えていくたびに達成感を味わっていた。

けれど、今は思う。あの達成感はまやかしだったんじゃないだろうか。生活費を切り詰めて秘密の貯金を捻出することで、稼いでいるという錯覚を得ようとしたんじゃないだろうか。

そう考えると今まで貯金箱の重さで喜んでいた自分自身が急にむなしく思えた。