<前編のあらすじ>
専業主婦の恵美香は、夫・健介と小学2年生の娘・陽奈と暮らしている。家計は健介が稼ぎ、恵美香はその生活費の中でやりくりして生活していた。そんな恵美香の唯一の楽しみは、少しずつ500円玉を貯金箱に入れていくことだった。
その貯金は遊びのためではなく、生活費の補填や娘の病院代など家族のためのものでもあった。明確な目標はないが、重くなっていく貯金箱を持つたびに、恵美香は密かな達成感を覚えていた。
そんな中、元同僚の真由から1泊の温泉旅行に誘われ、恵美香は初めてその貯金を自分の楽しみに使おうと考える。夫に相談して了承を得るが、その数日後、貯金箱の中身が明らかに減っていることに気づき、恵美香は愕然とする。
●前編〔【家庭内窃盗?】内緒で続けた500円玉貯金…主婦のささやかな楽しみを破壊した“まさかの異変”〕
500円玉貯金の行方
恵美香はキッチン台に散らばった500円玉を見ながら、考えていた。
最後に中身を確認したのは健介に旅行の話をした翌日だった。そのときはもっと重みがあった。あれからこの貯金箱のお金に手を付けたことは一度もなかった。
恵美香はもう一度貯金箱の中身を確認する。しかし中はやはり空だった。なくなっているのは10枚ほど。
考えたくないが、思いつく可能性はひとつしかなかった。恵美香以外に、この500円玉貯金のことを知っているのは健介だけだった。
「健介、貯金箱の中身を確認したら中身が減っていたの……」
夜になり、玄関に座って靴を脱いでいた健介に訊ねると、健介は事もなげに答えた。
「ああ、俺が使ったよ」
「……え?」
「必要だったんだよ」
そう言うと健介は立ち上がって洗面台に向かった。恵美香はその健介のあとをついていった。
「どういうこと……?」
「今朝、出勤前に部署のグループLINEで言われたんだよ。部長の奥さんの誕生日祝いを有志で渡すことになったから金を出してくれって。品物は先輩が買ってくれてて、今日中に現金を渡さないといけなかったんだ」
健介は反省の色をまったく見せず、淡々と説明を続けた。
「財布に現金はなかったから貯金箱から出したんだよ」
健介は洗面台で手を洗ってリビングに歩いて行く。
「ちょっと待ってよ。だとしてもどうして黙って使うの?」
「別に後で戻すつもりだったから。それに遊びで使ったわけじゃなくて仕事の付き合いで使ったんだからいいだろ?」
「もともとは生活費なわけだし、使い道をとやかく言ってるわけじゃない。仕事上の付き合いならしょうがないって思ってるよ。でも黙って使うのは違うって言ってるのよ」
そこで健介は立ち止まり恵美香を見てきた。
「黙ってって言うなら恵美香だって俺に黙って貯金をしてただろ? お互い様だよ」
「いやでも……」
黙って貯めていたのは事実だった。
「それに恵美香が貯めてたかもしれないけど、そもそもあれは俺が稼いだ金だろ? それを俺がどう使おうと別にいいはずだ」
