朝7時、恵美香はキッチンで自分の分の目玉焼きを焼きながら、ダイニングで朝食を食べる娘の陽奈に声をかけた。
「陽奈、早くしないと遅刻するわよ」
小学2年生の陽奈は朝が弱く、ぼーっとした顔でゆっくりとご飯を食べていた。目玉焼きが焼き上がったところで夫の健介がリビングに顔を出した。
「じゃあ俺もう行くから」
その言葉を聞き、恵美香は玄関まで健介を見送りに行った。
「今日は遅くなりそう?」
「うん。多分そうなる」
健介は住宅設備商社で営業をしていた。帰りが遅い日も多く、家のことは恵美香がほとんど引き受けていた。
前は恵美香も医療事務の仕事をしていたのが、陽奈を妊娠したときに健介から子どもが小さいうちは家にいて欲しいと言われて辞めていた。今は2LDKの賃貸マンションで暮らしながら、健介から毎月決まった生活費を渡されてその中でやりくりして生活している。
無事に陽奈も送り出すと家の中は急に静かになった。皿を洗って洗濯機を回すと、少しだけ手持ち無沙汰になった。買い物や掃除などやることはもちろんあるのだが、それでも家族を送り出したあとは、ぽっかりと穴が空いたように感じることがあった。
医療事務として働いていたころは患者の受付や会計に追われていた。今の生活に大きな不満があるわけではないが、ふとした瞬間にあの頃の自分を思い出すことがあった。
