降り積もる雪の中の決戦

12月半ば、大雪が家を包み込んだ夜。ついに、その時が訪れた。

ガタガタと震えながらお茶を飲んでいた私のもとに、夫が珍しくリビングに入ってきた。手には、1枚の紙。それは、夫が自ら書いたであろう「離婚届」だった。

「これにサインしてくれ。東京のマンションの売却益の残りは、お前にやる。この家は俺が残る」

夫の目は、完全に生気を失っていた。かつて会社で部長を務め、プライドの高かった男の影はどこにもない。

その姿を見た瞬間、私の中で何かが弾けた。

「ふざけないでよ!」

私は立ち上がり、離婚届を破り捨てた。

「お金がないから離婚できないんじゃない! あなた、自分が何をしたか分かっているの!? 私をこんな山奥に連れてきて、財産を失って、謝りもせずに逃げるの? 35年間、私はあなたを支えてきたのよ。それを、こんな、こんな場所で終わらせるなんて、絶対に許さない!」

涙がボロボロと溢れ、視界が滲む。私は夫の胸を何度も拳で叩いた。夫は抵抗せず、ただ私の打撃を受け止めていた。

「……すまなかった」

地を這うような声で、夫が呟いた。

「俺も、怖かったんだ。会社を辞めて、自分が何者でもなくなって……。村の奴らに持ち上げられて、まだ必要とされていると思い込みたかった。お前に、現役時代みたいにカッコいいところを見せたかったんだ。全部、俺のくだらないプライドのせいだ」

夫はその場に膝をつき、大声をあげて泣いた。東京にいた頃、一度も涙を見せたことのない男が、子供のように肩を震わせて号泣していた。