「外資系コンサルって厳しい世界だねえ」

「まさか……」

一仁は絶句した。挨拶代わりに高級ワインをプレゼントするくらい裕福だった香山夫妻が、急にお金に困るようになるなんて、全く想像ができなかった。

「外資系コンサルって厳しい世界だねえ。高級車を乗り回して羽振りが良さそうだったけど、実はろくに貯金もなかったらしいよ。しかも、奥さんのほうは料理研究家だったらしいけど、名前入りで販売していたレトルトカレーが売れなくて借金を抱えていたらしい。パワーカップルなんて言っても、収入がなくなったらみじめなもんだ」

「そうだったんですか……」

一仁は意外だった。若くて裕福な夫婦に密かに嫉妬していたのに、それはウソだったというのだ。

「要するに、お金持ちを装っていただけで、家計は火の車だったんだよ。あなたに高級ワインを持ってきたのも、見栄を張っただけで、本当は相当痛い出費だったんだろう。それを粗雑に扱われたから腹が立ったんじゃないかな」

「なるほど……」

一仁はようやく香山舞衣の怒りの理由が理解できた。ただ、納得がいったわけではなかった。

「でも結局、悪いのは向こうだったってことですよね……」

「まあまあ、向こうは破産したんだし許してやったら? もう悪口を言われる心配はなくなったんだし」

沢口利明は一仁の背中をぽんと叩くと、歯を見せて笑った。

「そういえば、あなたがもらった高級ワインはどうしたの?」

「結局返しそびれたままですよ……」

それを聞いて沢口利明は目を輝かせた。

「じゃあ、いまからお祝いにそのワインを飲もうよ!」

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。