「なんで私が謝らないといけないんだ……」

「なんで私が謝らないといけないんだ……」

清掃活動から帰宅した笹山一仁は怒りが収まらなかった。

たしかに、香山夫妻に安物のケーキを出したのは、一仁のミスだったかもしれない。ただ、その程度のことをこんなにも長い間根に持っている香山夫妻はさすがにどうかしていると思った。

――警察に相談しようか……。

一仁はそんなことも考えてみたが、いまのところ実害があるわけではないし、警察に行っても取り合ってはくれないだろうと思ってやめにした。

――やっぱり無理にでもワインを返したほうがいいだろうか……。

香山夫妻からもらった高級ワインは、手つかずのままキッチンの片隅に置かれている。

一仁はそのワインの入った手提げ袋を恨みのこもった目で見つめた。

――このワインがあるのがいけないんだ……。

「なんでも破産したらしいんだよ」

それからさらに一か月ほどが経った。自分の悪口が言いふらされていると思うと、自治会の集まりに行くのもすっかり億劫になっていたが、清掃活動だけはやらざるを得なかった。

その日、自治会の清掃活動に参加した一仁は、再び沢口利明に会った。

「あのさ、36階の香山夫妻のことだけどさ」

沢口利明は人目を気にしながら、声をひそめた。

「つい先週引っ越していったらしいよ」

「え?」

「なんでも破産したらしいんだよ。ご主人が急に仕事をクビになったとかで、ローンを払えなくなったとか聞いたよ」