加速する動画制作の日々
初投稿から1カ月を過ぎるころには、SNSが早和子の生活の中心になっていた。
朝、目が覚めると最初に再生数を確認し、通勤電車では伸びた動画と伸びなかった動画の違いを考える。昼休みにはコメント欄を見返し、帰宅後は夕飯より先にアプリを開く。デスクに座り、請求書の確認をしながらも、頭の隅では次に使えそうなネタを探していた。
「最近楽しそうだよね?」
昼休み、同僚がインスタント味噌汁のフタをはがしながら言った。
「そうかな?」
「うん、なんか忙しそうだし。新しい趣味でも見つけた?」
「まあ、そんなとこ」
早和子はそれ以上、話を広げなかった。自分でも、暇つぶしの範囲はとっくに超えているとわかっていたからだ。
「やばい、遅くなっちゃった」
家に帰ると、靴を脱いですぐにスマホを充電器につなぐ。
コンビニのパスタのフタを開けながら、今日の投稿候補を見比べる。
最初は月曜のだるさや会議の建前のような、誰でも笑える小ネタばかりだった。だが最近は、職場の面倒な上司、空気の読めない同僚、自己陶酔した発信者。少し誰かを刺す内容のほうが、明らかに反応がいい。
「わかりすぎて辛い」「こういう人いる」「今年一番笑った」
そういうコメントが並ぶと、早和子の手は止まらなくなる。
自分で描いたわけではないと自虐的になる瞬間もある。だが、何を題材にして、どこを強調して、どう見せれば刺さるかを決めているのは自分だ。その感覚だけは、昔の仕事に少しだけ似ている。
新しい1本を投稿してしばらくすると、通知がまとめて増えた。早和子は口元をゆるめながら画面を開く。
「ほらね」
だが、その日は好意的な反応ばかりではなかった。
「最近ちょっと悪意強くない?」
「前のほうが素直に笑えた」
「AIだからって何でもやっていいわけじゃないでしょ」
早和子は眉を寄せた。
少し前まで楽しんでいたはずの人たちが、急にわかったような顔をして説教してくる。その不快さが、胸の奥にざらついて残る。
「見なきゃいいのに」
独り言のようにつぶやいて、批判的なコメントをしてきたアカウントをブロックしていく。代わりに、ポジティブな言葉だけを読み返した。
「センスある」「この人、わかってる」「もっと攻めてほしい」
早和子は食べかけのパスタを脇に寄せ、次の指示文を打ち始めた。
今度は、最近よく見かける押しつけがましい啓発系の投稿を、もっと露骨に茶化した内容にする。生成された映像を見て、表情を大げさに直し、文言をわざときつくする。
「理解できる人だけ見ればいいのよ」
投稿ボタンを押したあと、早和子は少しだけ背もたれに体を預けた。静かな部屋の中で、通知音だけが短く鳴る。苛立ちはまだ胸の底に残っていたが、それ以上に、次はどこまで伸びるのかを考えている自分がいた。
●生成AIで作った動画が思わぬバズり方をし、ますます没頭していく元アニメーター志望の早和子。しかし、過激さを増す投稿にはやがて批判の声も上がり始め、それでもなお数字を追い続ける早和子の暴走は止まらない…… 後編【 「うそでしょ」数字を追い続けた果てのアカウント停止…政治家・芸能人のフェイク動画が招いた喪失】にて、詳細をお伝えします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
