頭から離れない再生数
事務所に着いてからも、投稿動画のことが頭から離れなかった。パソコンを立ち上げ、メールを確認し、書類を整理している最中も、スマホの画面が頭の隅にぶら下がっているようだった。
昼前、後輩がコピーを取りに来たついでに声をかけた。
「水谷さん、今日なんか機嫌いいすか」
「えっ、何で?」
「いや、ちょっと表情が違うなと思って」
「そうかな? いつも通りだよ」
そう言って会話を切ったが、完全には否定できないことを、自分でもわかっていた。
昼休み、1人でコンビニ弁当を広げながら、早和子はまた動画アプリを開く。再生数はさらに伸びていた。
「フォロワーも増えている……」
コメント欄を下へスクロールする。共感や、褒め言葉が続くたび、高揚した気分になった。制作会社を辞めて8年、自分の作ったものに対して、こんなふうに評価を受けたことはなかった。
「ただいま……」
帰宅すると、早和子はアプリを開き、昨日の動画をもう一度見る。
やはり大した内容ではない。くだらないし、雑だ。それなのに、ウケている。
「こんなのでいいんだ」
誰に言うでもなくつぶやく。
しばらく迷ったあと、早和子は新しい動画の指示文を打ち始めた。
今度は会議前の建前と本音。昨日と同じように短く、わかりやすく、大げさにする。生成された映像を見て、セリフの位置を直し、もう一度出力。投稿するときには、前ほどためらいはなかった。
「はい、できた」
数日後には、それが帰宅後の習慣になっていた。1本上げるたびに反応が返ってくる。SNSの収益欄に、わずかな金額が表示されたとき、早和子は画面を見たまま息を止めた。
「お金まで、入るんだ」
表示されているのは昼食代にも足りない程度の少額。
それでも、早和子には会社員としての給料以上に重く見えた。気がつくと静かな部屋の床に座り込んだまま、画面の中の数字を何度も指でなぞっていた。
