父の変化を感じる瑠美
餃子を包む手を動かしながら、瑠美はふとゴミが散乱していた部屋に酒の缶や瓶がなかったことに気がついた。
「……そういえばお酒は?」
「母さんが亡くなる少し前に、やめると約束をしたんだ。だからもう一滴も飲んでないよ」
瑠美はぐっと唇を噛みしめた。
「……バカね。なんでもっと早くに更生しなかったのよ? 母さんが生きてるうちにそんなふうになってれば……!」
「……すまんな」
それからは無言で餡を包み、作業が終わるとリビングに戻っていった。今にも風に飛ばされそうなほど痩せ細っているが足取りは重かった。瑠美はそんな一男の背中を見て本当に長く持たないのだなと感じた。
それから瑠美は餃子を焼いて皿に盛り付け、一男の前に出した。一男は出された餃子を口に入れて頷く。
「うん、うまいよ」
「そう」
瑠美も一男と一緒に餃子を食べ進めた。
「……もううちには来なくて良いからな」
4個目の餃子を食べたあとで、ふと一男がつぶやいた。
「え?」
「お前にはお前の生活がある。仕事だってしてるみたいだし俺に時間をかける必要はない。俺のことなんて忘れて自分のために生きてくれ」
一男なりに迷惑をかけまいとして言ってくれてるのが伝わってきた。きっと家に来たばかりのときなら言われなくてもと思っていただろう。しかし瑠美は来たときのように割り切れなかった。
「お父さんが入院しないならこれからも来るよ。でもそれは父さんのためじゃないから。母さんがいた場所を汚されたくないからよ」
「……掃除なら俺がやるよ」
「その体ではできないでしょ。だから私がやる。入院の件はとりあえず保留ってことでいいから」
「……いいのか? こんな俺の世話をしてくれるのか?」
瑠美は一男を見据える。
「許したわけじゃない。ここは私の思い出が詰まった大事な場所だから放っておくのは違うって思っただけ。……それに知った以上は見ないふりをするのは寝覚めが悪いから。あくまで私のためにやるのよ」
瑠美の話を聞き一男はまたうつむいた。うつむきながら肩をふるわせていた。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
