思い出の餃子が繋ぐ会話
掃除を終えた瑠美はリビングに戻り、冷蔵庫の中身を確認した。片づけたゴミは出来合いの惣菜ばかりだったから、ちゃんと食べられているのか気になったのだ。
瑠美の想像通り、冷蔵庫の中にまともな食材はほとんど入っていなかった。これで1人で何とかなるとか言っていたかと思うとあきれを通り越して腹が立った。
無視するのもさすがに居心地が悪く、瑠美は近くのスーパーに食材を買いに向かった。買い物を終えて戻ってきた瑠美に一男は目を丸くしていた。
「餃子作っておくから」
「あ、ああ……」
瑠美は台所に向かい袋から挽肉やニラ、餃子の皮を取り出し、手早く餃子の餡を作った。何も考えずに選んだメニューだったが、なんでこんな手の込んだものを作っているのかと思った瞬間に、瑠美は思い出した。
一男は酒浸りの毎日を過ごし、母を働かせているだけのどうしようもない人間だ。親らしいことなんて何ひとつしなかったし、思い出だってほとんどない。ただ唯一、一緒に料理をした記憶を除いて。
仕事で外に出ていた母の代わりに、料理を作るのは一男の役割だった。献立はどれもチャーハンや肉の入っていない親子丼など手のかからないものばかりだったが、一番よく覚えているのは一緒に餃子を作ったことだ。
手先の器用な一男は餃子を包むのもきれいで速く、瑠美は何度も教えてもらいながら包み方を覚えた。何か作り置きをしていこうと思った自分が自然と餃子を選んでいたことに、思わず自嘲するような笑みがこぼれた。
「手伝うよ」
一男がそう声をかけてきたのは唐突で、瑠美は少しだけ迷ってから頷いた。昔と比べると痩せ細った指で動きも遅いが、包み方は昔と変わらずきれいだった。
「……鏡台、直したのって父さんでしょ?」
「……ああ。最期に母さんがあそこで化粧をしたいと言ってたんだ。だからちゃんと使えるように修理をしたんだよ」
一男の説明を聞き、瑠美は頷く。
「……喜んでた?」
「そうだな。……とても嬉しそうに見えたよ」
母は白血病で、ずっと在宅治療と入院を繰り返しているような状態だった。もう家に帰ってくることはないと悟ったときにあの鏡台を使ったのだろう。
「借金、よく返せたね。あんなに仕事嫌がってたし、ギャンブルだってやってたのに」
「……逃げていただけだ。母さんがいない辛さから逃げるために、何も考えなくて済むように、ただがむしゃらに仕事をしたんだ」
「あっそ」
