完璧な復唱まで終わらない「謝罪儀式」の苦痛

謝罪には幹太さんなりのルールがありました。まず、幹太さんが謝罪のセリフを伝え、それを母親が復唱します。しかし、1回でスムーズに終わることはありません。なぜなら、最初から最後まで一言一句間違えず、スラスラと淀みなく言わなければならないからです。

母親は謝罪のセリフを途中で忘れてしまうこともしばしば。すると幹太さんから「俺の言った通りじゃない! もう一度最初からやり直し」と鋭い声が飛んできます。

仮にセリフ通りに謝罪できたとしても「心がこもっていない! 本当にすまないと心から思っているのか?」と難癖をつけられ、またやり直し。結局、幹太さんが納得するまで何度も何度も謝罪をさせられてしまうのでした。

さらに困ったことに、その時は幹太さんが納得しても、しばらくすると再び恨みつらみを聞かされ謝罪を強要されるのでした。

そこまで語った母親は胸の内を口にしました。

「長男の要求には終わりが見えません。私が謝罪したところで、状況は何も変わりませんよね。それなのに、なぜ長男は何度も謝罪を要求してくるのか。それが理解できないのです。このままでは私もおかしくなってしまいそうです……」

母親の顔には疲労の色が濃く漂っており、心労が絶えない様子がうかがえました。

恨みつらみを聞かされ、謝罪を強いられる。その状況はとても辛いことでしょう。ですが、ひきこもりのお子さんが親に恨みつらみを述べたり謝罪を求めたりすることは、実はそれほど珍しいことではありません。別のご家族からもたびたび耳にすることがあるからです。

とある親御さんは、子どもが謝罪を求めてくる心境について次のように語っていました。

「『自分自身のせいでひきこもりになった』と認めてしまうと、生きていくのが辛すぎるのかもしれません。親のせいにすることで、何とか自分の心の均衡を保っているように感じるのです」

これを聞いた筆者はなるほど、と思いました。

もちろん、幹太さんがこのような心理状態になっているかは分かりません。ですが、少なくとも幹太さんの精神状態はかなり不安定になっていることは伝わってきました。

●この後、筆者の支えにより親子の将来に一筋の光が見えますが……待っていたのは「予想外の展開」でした。後編【「もう二度とこの話はすんな!」無収入でひきこもりの47歳息子が、障害年金受給を断固拒否…途方に暮れる81歳母の絶望】で詳説します。

※プライバシー保護のため、事例内容に一部変更を加えています。