溜め込まない日々の始まり

週末の朝、洗面所に立った大輔は、歯ブラシを水で濡らし、棚の砂時計をひっくり返した。セラミックと天然歯の境目を重点的に磨く。砂が半分落ちたころ、背後でスリッパの音がした。三奈が眠そうな顔で立っている。

「おはよう」

大輔は口を閉じ、泡をこぼさないように「おはよう」と返した。

「今日も真面目に歯磨きしてるね」

「まあね」

口をすすぎ終え、大輔はフロスを取り出した。ルーチン化してしまえば、何ということはない。むしろ歯医者にかかった費用を思えば、自宅ケアの負担など安いものだった。

「うわ、そうだった……」

リビングに戻ると、洗濯物の山が目に入った。大輔はランドリーバスケットに、放置された衣類を詰め込み始めた。

「え、大輔が洗濯しようとしてる! しかも自分から!」

「う……サボっててごめんって。これからは、溜め込まないようにするから」

「よろしい」

洗濯機に放り込み、洗剤を入れ、ボタンを押すだけ。たったそれだけの作業が、今日は少し気持ちよかった。

キッチンでは、三奈がマグカップにお湯を注いでいる。大輔は熱いものを避けていた日々を思い出し、思わず頬に手を当てた。

「はい、どうぞ」

「ありがと」

三奈の隣に腰を下ろし、温かい飲み物を一口飲む。

もう口の中に痛みはない。洗濯機が回り始め、低い機械音が部屋に広がった。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。