家計部門の金融資産残高が「過去最高」と話題だが、注目すべき数字は…
2025年第3四半期の資金循環統計が発表されました。気になる家計部門の金融資産残高は総額が2286兆3350億円で、前年同期比4.9%増。前期(2025年6月末)比では2.1%増となりました。
いくつか注目したい数字があるので、それについて紹介していきましょう。
まず、総額は過去最高額を更新しました。
次に、現金・預金の残高ですが、前年同期比で見た場合、現金は減少傾向をたどっています。直近で高い伸び率を見せたのは2020年9月期から2021年3月期にかけてで、2020年9月期が6.4%増、2020年12月期が5.8%増、2021年3月期が7.7%増でした。この間、新型コロナウイルス関連でさまざまな補助金、助成金が出たことから、それらが現金にカウントされたからと考えられます。
しかし、2023年9月期以降、現金の前年同期比はマイナスに転じており、2025年9月期までに9期連続でマイナスになりました。この間、インフレが進んだことから、現金のまま保有することのリスクに対する認知が広まったためと思われます。
同じことは流動性預金についても当てはまりそうです。流動性預金の前年同期比は、2020年6月期から2021年3月期にかけて2ケタの伸び率となりましたが、徐々に伸び率は低下し、2025年9月期のそれは0.5%増となりました。
一方、減少傾向に歯止めがかかったと思われるのが定期性預金です。定期性預金の前年同期比は、2015年9月期から2025年6月期まで、実に40四半期(9年9カ月)にわたってマイナスでしたが、2025年9月期は1%増に転じています。理由は、金利が発生してきたからです。長期金利の上昇、政策金利の引き上げを反映して、定期預金の利率が上昇してきました。特にネット銀行を中心にして、1年物で1%超の利率を提示しているところが増えており、定期性預金に対する関心が高まりつつあります。
好調な相場の影響で、株や投資信託の金額は伸びたが、数字の読み解きには注意点も
また、前年同期比で大きな伸びが目立ったのは、株式や投資信託などのリスク資産です。投資信託は21.1%増、上場株式は16.1%増となりました。金額ベースで見ると、
投資信託・・・126兆550億円(2024年9月期)→152兆6120億円(2025年9月期)
上場株式・・・168兆9930億円(2024年9月期)→196兆1344億円(2025年9月期)
ちなみに資金循環速報に記載されている「株式等」は未上場株式も含まれていますが、ここではそこから未上場株式の数字を省いて、上場株式の数字で前年同月比を計算しています。
ご覧のように、投資信託、上場株式のいずれも大きな伸びを見せていますが、ここには評価損益が含まれていることに留意しておく必要があります。
日経平均株価の月末値を見ると、2024年9月末は3万7919円で、2025年9月末は4万4932円で18.5%の上昇。S&P500の2024年9月末が5762.48ポイントで、2025年9月末が6688.46ポイントですから、16.1%上昇しています。確かに投資信託の前年同月比が21.1%増、上場株式のそれが16.1%と大きく伸びてはいるものの、かなりの割合で、株価の値上がりによって発生した含み益による押し上げ効果があると見た方が良いでしょう。
たとえば上場株式について見ると、2024年9月期から2025年9月期までの1年間で、評価額は約27.1兆円増ですが、この間に生じた含み損益は約32.1兆円ですから、差し引きで考えると、個人資金は国内株式市場から流出したと見ることができます。実際、東京証券取引所が発表している投資部門別売買動向によると、2024年10月第1週から2025年9月第4週までのそれは、約5兆円の売り越しになっています。
一方、投資信託の同期間中における評価額は約26.6兆円増で、この間に生じた含み損益は約16.6兆円ですから、差し引きで約10兆円の資金純流入になります。NISAなどによる積立投資効果もあるのか、投資信託については安定した資金流入が続いています。
なお、投資信託と上場株式の、含み損益を除いた資金純流出入の前年同期比を計算すると、上場株式は2023年9月期から2024年6月期にかけて約25.0%から33.0%まで大幅増を続けた後、2024年9月期からやや減速し、2025年6月期、9月期と2期連続で前年同期比マイナスとなっています。
これに対して投資信託は、2023年9月期から2025年3月期まで15%台~33%台という大幅な伸びを見せた後、上場株式と同様、若干のペースダウンは見られますが、それでも2025年6月期が7.8%増、2025年9月期が8.6%と着実に資金純流入ペースを維持しています。
