「パブリックからプライベートへ」という言葉を経営方針に掲げたのは、今から5年ほど前の2020年4月に、野村ホールディングスグループCEOに就任した奥田健太郎氏でした。
パブリックは「上場株式」をはじめとしてマーケットに上場され、不特定多数の市場参加者によって取引されている資産のことです。
対してプライベートとは、「プライベート・エクイティ」、「プライベート・デット」、「不動産」、「インフラ」、などのプライベートアセットを指しています。つまり公開されたマーケットではなく、どちらかというと資金の出し手と取り手の間で、相対によって取引条件などを決めて、やりとりが行われる資産といっても良いでしょう。
近年、プライベートアセットが注目を集めています。といっても、少額資金で積立投資をしている個人レベルでは、まだまだプライベートアセットの名前すら浸透していないでしょう。逆に、プライベートアセットに注目しているのは、今のところはまだ証券会社などの金融機関側と言えそうです。
証券会社がプライベートアセットに注目する3つの理由
では、どうして証券会社がプライベートアセットに注目しているのでしょうか。理由はいくつか考えられます。
第一に、上場廃止の会社が増えていること。東証上場企業のうち、2025年に上場廃止した企業数は125社にのぼりました(12月22日時点)。理由は、東証が「量より質」に転換したことと、企業の非公開化が進んだことです。
「量より質」への転換については、たとえば「PBR1倍割れ改善要請」とも報じられた「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願い」や、グロース市場の上場維持基準見直しによって、上場から5年が経過した企業に対しては時価総額100億円への到達を求め、達しない企業については上場廃止を余儀なくされます。
また、上場維持基準の厳格化に加え、アクティビストによる経営面への介入を嫌気する企業も結構あり、MBOなどによって株式を非公開にする動きも広がってきました。しかし、上場企業の数そのものが減れば、上場株式などの売買によって得る売買手数料や、企業の株式上場を手伝うことで得る引受手数料が目減りしてしまいます。
第二に、株式の売買手数料自体が大きく目減りしたことです。これは何も今に始まったことではありませんが、SBI証券などのインターネット証券を中心にして、株式の売買手数料をゼロにする動きが広まり、もはや株式の売買手数料は証券会社の収益の柱にはなりえない時代になりました。
要するに、証券会社の収益構造が極めて危うくなってきたのです。当然、証券会社としては新たな収益源の確保が必要であり、それがプライベートアセットの取扱いを積極化させた要因であると考えられます。
第三には、ポートフォリオの多様性を求める動きがあることです。その背景にあるのは、言うまでもなくリスク分散です。上場株式や上場債券といったパブリックアセットに対して、価格の相関性が低いプライベートアセットへの投資が注目を集めているのです。実際、米国の公的年金のポートフォリオには3割程度、ハーバード大学の大学基金には7割程度、プライベートアセットをはじめとするオルタナティブ資産が組み入れられています。
あるいは日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の年金ポートフォリオにも、この数年でプライベートアセットなど、オルタナティブ資産の組入が進んでいます。
