老後の生活を支える有力な手段の一つである確定拠出年金(DC)には、個人が加入するiDeCo(イデコ)と企業の従業員が加入する企業型の2つの制度があります。9月16日は2016年に個人型DCの愛称が「iDeCo」に決まった記念日です。両制度の活用と資産運用の必要性を考えるきっかけとして、FinaseeではNPO法人確定拠出年金教育協会の協力のもと、「iDeCo・企業型DCショートエッセイ」コンクールを企画しました。全国の皆さまからご応募いただいた「iDeCo」「企業型DC」に関するご自身の気持ちをつづった力作から、栄えある優秀賞に輝いたニックネームゆうとさんの体験談をお届けします。

制度の価値は“使うこと”にある

「この制度、未来の自分に向けたためのものです」

企業型確定拠出年金(DC)の説明会でそう語っているのは、ほかならぬ私だ。制度の社内担当者として資料を作り、社員に説明をし、質問にも答えてきた。でも、ふと思う。「私が一番よく分かっていないのでは?」と。

制度の仕組みは説明できる。でも「実際、どのように選べばよいか」と聞かれると、言葉に詰まる。「お好みで」と返してしまう。まるで寿司店のように。

資産運用は正直、怖い。

お金が増えるかもしれないし、減るかもしれない。何もしないリスクは分かっていても、動くには勇気がいる。社員の中には「分からないから、定期預金でいいや」と放置している人もいる。でも、それこそが一番もったいない。この制度の価値は“使うこと”にあるのだから。

企業型DCやiDeCo(個人型確定拠出年金、イデコ)は老後の生活を支える有力な制度だ。自分でお金を育てる仕組みがあるのは、本当にありがたい。でもそれは、「制度がある=安心」ではない。制度を理解し、活用してこそ初めて意味を持つ。

私自身も、担当になってからやっと真剣に運用を始めた。少しずつ積み立てている。毎月拠出しながらも、価格が下がると不安になる。けれど、長期的に見れば一時の下げに過剰反応しないことが重要だというのも、学びのひとつだ。

最近は社員からの質問にも、こう答えている。

「完璧に分かっている人なんて、誰もいません。でも、知らないまま放っておくのが一番のリスクです」と。これは担当者というより、一人の加入者としての実感だ。

制度をうまく使えば、未来の安心につながる。毎月少しずつでも、自分で選び、積み重ねることで、“老後”という不安な存在が少しずつ輪郭を帯びてくる。

確定拠出年金は、ただの制度じゃない。担当者として。そして一人の利用者として。この制度と向き合っている。