見切り発車ができる状態ではない
ユーロ圏ですら最近でこそ基金を設け、④の対象国間である程度の財政移転を可能にしたものの、ユーロ発足時にはOCAの条件を満たしておらず、スタートできるかどうか危ぶまれたが、見切り発車した経緯がある。ユーロを導入すれば自然に産業構造などが変化し、景気循環も収斂して条件が整っていくと考えたのである。
一方、地理的にも文化的にも乖離が大きいBRICSの場合、現加盟国でみても、拡大BRICSでみても、この条件はまったく満たせていない。到底、見切り発車ができる状態ではない。BNYメロンの市場・戦略・インサイト部門を率いるボブ・サベージが、「米ドルがすぐに世界的な基軸通貨としての地位を失うことはないだろう」と述べ、BRICSがドルに代わる通貨を創出したり、見つけようとしたりしてもすぐには取って代わる通貨を見いだせないからと指摘するゆえんだ。
それでもルーラ大統領は、BRICS銀行の2023年の総会で「なぜすべての国が自国の貿易取引をドル建てでしなければならないのか」と呼びかけた。
●第2回は【「アメリカがドル覇権の特権を振り回すのはけしからん」…着々と進む人民元決済の拡大の実態】です。(1月10日に配信予定)
通貨覇権の興亡
著者名 髙橋 琢磨
発行 日本実業出版社
価格 2,420円(税込)