2025年は、アメリカ・ファーストの政策を掲げるトランプ大統領の返り咲きによって、世界経済の先行きは不透明感が強まりそうです。野村総合研究所、中央大学大学院教授などを経て評論活動に専念している髙橋琢磨氏は新著『通貨覇権の興亡』のなかで、米中の対立を軸に米ドル1強の世界がどう変わるのかをつぶさに分析しています。今回は本書から南米でも強まる脱ドルの動きを紹介します。(全2回の1回目)

※本稿は、髙橋琢磨著『通貨覇権の興亡』(日本実業出版社)の一部を抜粋・再編集したものです。

ドルによる覇権に異を唱えるBRICS

多くの新興国は為替取引で米ドルへの依存を減らしたいと考えているのは確かだろう。アメリカがドルの支配的な地位を使ってロシアに金融制裁を実施したことで、一部の国々が「脱ドル」を考える契機となったのだ。

BRICSが西側陣営と対峙するシンボルとして「ドル覇権への挑戦」という旗を掲げるのはそれなりに説得力を持つ。ブラジル大統領、通称ルーラ・ダ・シルヴァが提唱するのは、BRICS共通通貨だ。だが、ユーロにならった共通通貨が成立するためには、マンデルの提唱した最適通貨圏(OCA:Optimal Currency Area)の条件を満たすかどうか、まずは理論的なチェックが必要だろう。

OCAの条件として、①対象国間で産業構造に類似性があること、②対象国間で貿易開放度および貿易依存度が高いこと、③対象国間で生産要素価格の伸縮性・移動性の高さがあること(≒端的には労働力の移動が自由であること)、④対象国間で円滑な財政移転が可能なことの4つが挙げられる。