国立社会保障・人口問題研究所『日本の世帯数の将来推計』(2024年推計)によれば、世帯主が65歳以上の世帯が一般世帯総数に占める割合は、2020年の37.6%から2050年には45.7%へ、75歳以上は19.1%から28.3%へ、85歳以上は5.5%から10.2%へとそれぞれ上昇する。これらの数字が何を言わんとするかは明確で、「高齢化が進んでいる」ということだ。

次に、以下の数字を見てほしい。

40歳未満・・・・・・782万円
40~49歳・・・・・・1208万円
50~59歳・・・・・・1705万円
60~69歳・・・・・・2432万円
70歳以上・・・・・・2503万円

これは家計調査報告(貯蓄・負債編)の2023年平均結果にある、「世帯主の年齢階層別貯蓄現在高(二人以上の世帯)」だ。

世帯主の高齢化が進むと同時に、高齢世帯になればなるほど貯蓄残高が増していく――これらの実態が示唆していることは、今後、金融資産をはじめとする各種資産の「相続」が増えるということに他ならない。それを意識してか、金融機関は高齢者とその家族を対象にしたサービスに力を入れ始めている。

いちよし証券が9月からスタートさせた「ドリコレ・パス」もそのひとつだ。

そもそも「ドリコレ」とは、同社が提供しているファンドラップサービスである「ドリーム・コレクション」のこと。「運用モデル1(保守的)」から「運用モデル5(積極的)」まで、顧客の投資方針やリスク許容度に応じて、5段階から最適な運用モデルを選び、複数の投資信託を組み合わせることで運用するファンドラップサービスだ。

投資信託ならば、株式と同じ有価証券の一種なので、相続が発生した時には、被相続人から相続人に名義を変更すれば相続手続きは完了する。

しかし、ファンドラップサービスの場合、仮に“中身”がすべて投資信託であったとしても、投資信託のように名義変更を済ませれば相続できるものではない。

「ファンドラップサービスは、あくまでも本人と証券会社の間で交わされる投資一任契約なので、本人が亡くなってしまったら、その時点で契約を解除しなければなりません。通常ですと、ファンドラップサービスは解約されたのち、相続人はその時の時価での現金で相続します」。ラップ・投資分析部長の中島初康氏は、一般的なファンドラップの相続について、こう解説する。

中島初康氏

そして、被相続人から相続人への資産承継を考えた場合、たとえ一時的にだとしても、解約による現金化にはデメリットが生じてしまう――そこが今回の「ドリコレ・パス」サービス誕生の理由だという。

「最大の問題は税金です。相続時にはただでさえ相続税がかかってきますが、ファンドラップを解約した時点で評価益が生じていると、解約に伴って譲渡益にも課税されてしまいます。加えてファンドラップのようなサービスは、長期にわたって投資し続けてはじめて、リターンの安定化を図ることができます。ところが現状、ファンドラップの利用者は比較的年齢層の高い人も多く、その方たちは相続発生時までの運用期間が短くなる傾向があります。こうした課題を解決するために登場したのが、ドリコレ・パスです」(中島氏)。

ドリコレ・パスは、被相続人(厳密には、贈与者)と推定相続人(受贈者)の双方がドリーム・コレクションを契約していることが必須、というのがポイントだ。

被相続人が事前にその運用資産を引き継ぐ相続人を指定する「死因贈与契約」を締結することによって、相続が発生した時、被相続人(贈与者)のドリーム・コレクションを解約することなく、相続人(受贈者)にそっくり資産を移管できる仕組みになっている。

死因贈与契約とは、被相続人(贈与者)と推定相続人(受贈者)との間で、「私が亡くなったら(資産を)あげます」「受け取ります」という当事者間の贈与契約のこと。相続する額によっては相続税が発生するが、被相続人が保有しているファンドラップを解約することなく、相続人に引き継げるため、相続時点で含み益が生じていたとしても、それに対する譲渡益課税はされないまま、被相続人が運用しているドリーム・コレクションの運用を引き継げる。

「換金することなくドリーム・コレクションの組入投資信託を引き継げれば、長期投資を継続できるだけでなく、譲渡益の課税を先送りできる分だけ複利効果を高めることもできます。ただし被相続人の方が生前のうちに、誰に相続するのかを決める必要がありますので、その時に『争続』にならないよう、誰にどの遺産を分割するのかについては、十分な配慮が必要です」と、アドバイザーサポート本部長 阿部弘志氏はこのサービスを活用するうえでの注意点も解説してくれた。

阿部弘志氏

このサービスを開発した背景には、相続での換金による資金流出への対策という一面もある。

いちよし証券では、今後5年間に同社のファンドラップ残高の17%程度で相続に伴う換金の可能性があるとみている。そうした資産の現金化を抑え、運用を続けてもらう狙いもある。