SBI証券、楽天証券が2強といわれて久しいインターネット証券。しかし、株式委託手数料自由化のきっかけを作ったのが松井証券であることをご存じだろうか。

長らく日本株に特化してきたからか、競争が激化する証券ビジネスにおいて一歩、後れを取ってしまったかに見えたものの、ここに来て映像コンテンツを武器に再び注目を浴びている。

抜群の登録者数※1、再生回数を誇る映像コンテンツの裏話や成功の秘訣(ひけつ)について投資メディア部シニアプロフェッショナル・コンテンツプロデューサーの武藤正樹氏に、そしてこれからの投信ビジネス戦略をマーケティング部副部長の種田真二氏に聞いた。

※1 松井証券のYouTube動画チャンネル登録者数は、10月8日時点で37.5万人。

***


――松井証券といえば、真っ先にユニークなYouTubeコンテンツを思い浮かべる個人投資家は多いはずです。そのなかでも、とりわけ有名なのは、お笑いタレント・マヂカルラブリーを起用した、「資産運用!学べるラブリー」シリーズだと思いますが、立ち上げるきっかけ、キャスティングの狙いなどについて伺えますか。

武藤正樹氏(以下、武藤)  動画コンテンツ制作を担当する前は、マーケティング部で会場での自社セミナーの開催・運営を担当していました。ただ、会場でのリアルセミナーはコストがかかりますし、何よりも人手が必要です。そう何度も開催できるものではありませんし、初心者から経験者まで集まるなかで、どこに話の焦点を合わせれば良いのかが分かりにくい。これらの課題を解決する何か良い手はないかと考えている時にコロナ禍があり、リアルセミナーの開催そのものが難しくなりました。そこで思いついたのがYouTubeを活用した動画コンテンツの配信でした。

証券会社が開催するリアルセミナーは、大体2パターンに分かれます。ひとつは本当の初心者向け、もうひとつはマクロ経済などに関する上級者向けで、両者のレベルには天と地の差があります。そして、その間を埋めるコンテンツが求められている割には存在しないため、ブルーオーシャンなのではないかと考えました。また、金融に関するテーマは難しそう、とっつきづらいと思われがちなので、それらを簡単に表現する方法を模索しました。そこで浮かんだのが、お笑いでした。

お笑いにはツッコミが存在します。つまり、金融機関側が提示したとっつきづらいテーマや内容に対して、お客さまの目線からツッコミが入ることで、動画にもかかわらず双方向的な構成がなされます。マヂカルラブリーさんの場合、そのツッコミの能力に長けていると感じたため、動画コンテンツ制作の企画を持ち掛けました。

投資メディア部シニアプロフェッショナル・コンテンツプロデューサー 武藤正樹氏

――武藤さんご自身も出演者として登場されています。出演するにあたって、何か心がけていることはありますか。

武藤 コンテンツ企画者としての自分と、出演者としての自分は別モノであると考えています。出演者の自分は金融知識や松井証券の商品・サービスを説明する人という立ち位置で、それを観てくださっている人たちに対して、どうすれば分かりやすく伝わるかということに心を砕いています。

おかげさまで、この動画コンテンツもシーズン14まで続いていますが、シーズン1の内容は、今、見返してみるとセミナーの延長線だったと感じます。セミナーで話していることを、マヂカルラブリーさんを交えて楽しく解説するという建付けではありましたが、双方向的な構成がまだまだ弱かったと思います。シーズン2からは個人投資家のテスタさんにも出演いただき、学校形式でよりバラエティー色を強めた内容にしましたが、それにより出演者としての自分の意識も高まったように思います。収録ではアドリブが入ることが多いのですが、他の出演者の方の動きを見ながら、観ている方に楽しんでもらうために自分はどう動いたらよいか? と、頭をフル回転させています。

――実際の口座開設や預かり資産に、動画コンテンツはどのような影響を及ぼしていますか。

武藤 YouTubeの再生回数や登録者数が増えたところで、それが新規口座開設や預かり資産の増加に直接的な影響を計測する手段が乏しかったので、昨年からの取り組みとして会員限定動画をスタートさせました。動画コンテンツを観ていただいた方を中心にして、口座開設につながったかどうかが分かるようになっていて、KPIとして設定されています。視聴できる方を限定してしまうという点は心苦しくはありますが、企画を継続させていくためには、どうしても成果を明確にしていく必要があります。 そのかいあって、現時点ではそれをクリアできるだけの成果が上がっています。

――他の金融機関でも、最近は動画コンテンツを制作する動きはありますが、どのような点で差別化できていると考えていますか。

武藤 やはり、実際にお客さまと接するなかで、“どういうことが求められているのかを起点にして”コンテンツを制作している点だと思います。

タレントさんを使うことによって、より多くお客様と接点を持ちたいというのが、恐らく多くの金融機関の発想の起点だと思うのですが、私たちがタレントさんに出演してもらっているのは、あくまでも企画の内容をより良くするための味付けのひとつという考え方です。お笑いやタレントさんの出演がなくても成立するコンテンツをつくるのが大前提で、それをより面白く、分かりやすく伝えるための手段として、お笑いの要素を組み込んだり、タレントの方々にご出演いただいたりしています。

――「どういうことが求められているのかを起点にして」とのことですが、具体的にたとえば、どのようなことが求められているのでしょうか。

武藤 たとえばオール・カントリーやS&P500のインデックスファンドで積立投資をしている人がいるとします。当然、投資信託である以上、マーケットに応じて基準価額が変動するわけですが、積立投資ならば教科書的には「投資を続ける」になります。また、個別株であれば、引き続き保有したり、損切りしたりするなど、投資の目的に応じてどういった行動が適切なのかが変わります。ただ、教科書通りの内容を伝えていくだけではなく、我々のような証券会社やテスタさんのような投資家の目線を合わせて提供することが価値と考えています。