カーライル・ジャパン
共同代表 山田 和広氏

 

――まずは、近年の国内プライベートエクイティ(非公開株式、以下PE)市場の動きについてお聞かせください。

国内のPE市場は、まさに急成長のフェーズに入っています。カーライルが日本に参入した2000年当時の市場規模は500億円程度でしたが、このところPE案件の引き合いが急増しており、現在は約3兆円のマーケットに膨らみました。PEに対する企業側、投資家側双方のニーズはますます増えていくことが予想されますので、市場拡大は今後も続いていくでしょう。

――企業側でPEのニーズが高まっているのには、どのような背景があるのでしょう。

少なくとも3つの理由が挙げられます。まず1つ目が事業承継問題で、日本国内に約260万社存在する非上場オーナー企業のうち、約60%が後継者不足に直面していると言われています。従来こうした企業を存続させる手段としては競合他社への譲渡が一般的でしたが、近年はPEファンドへの引き継ぎも選択肢として有力視されるようになりました。

PEファンドに引き継げば社名や経営陣、従業員を維持できますし、さらには事業戦略の見直しや外部人材の登用といったPEファンドならではの施策により、企業価値を改善できることが知られてきたためです。

2つ目は日本企業の経営効率化の進展です。2015年に東証と金融庁が「コーポレートガバナンス・コード」を策定したのをきっかけに、投資リターンを見込みにくい持ち合い株式の解消や、ROEやPBRといった経営指標の改善など、いわゆる「資本コストや株価を意識した経営」が促されました。

こうして、経営効率化に向けて多くの企業が主力以外の事業を分離・独立させる「コーポレート・カーブアウト」に取り組むようになったため、必然的にPEの引き合いが増えているのです。

そして3つ目は、グローバルに見られる上場会社減少のトレンドです。日本ではいまだ株式上場をよしとする傾向が根強いですが、米国の上場企業は1996年のピーク時に比べ半減するなど、世界的には上場企業数は減少してきています。

株式上場にはさまざまなメリットがあるものの、上場基準に基づく情報開示を求められる点や、短期目線でのリターン追求を余儀なくされることなどが中長期的な企業価値向上を妨げるケースもあるため、企業の間ではあえて非上場を選ぶいわば「戦略的非公開化」が始まっているのです。日本市場にもこうした企業価値向上に向けた動きが出てきており、今後はグローバルなトレンドに追随していくと思われますので、国内PEマーケットはさらに拡大していくでしょう。

――市場拡大は、投資先である企業と、資金の出し手である投資家の双方のニーズが高まってこそ成り立つと思います。国内の機関投資家の投資行動に変化は見られますか。

PEを手掛ける投資家のすそ野が広がってきた印象です。かつては金融機関が多くを占めていましたが、オルタナティブ投資の需要の高まりや、国内PE市場全体の魅力的なトラックレコードの蓄積などを受け、今では企業年金などからの引き合いも増えてきました。