前回まで、新NISAに対する筆者の秘策(全世界株式インデックスファンド、米国ハイイールド社債ETF、米国超長期国債ETF(ETFはいずれも通貨ヘッジ付)への等金額投資、月次積立)の「機関投資家向け運用と比較した個人投資家向け運用の『理想像』」(以下「個人投資の理想像」)との整合性を検証してきた。インデックス投資であること、債券の組み入れは市場の不調も意識した選択であり、「シニア=債券中心」のテーゼに則った訳ではなく、そもそもこのテーゼが常に正しいとは限らないこと等を述べてきた。
さらに、過去の市場環境における有効性をデータで確認、各ファンドの累積パフォーマンスでも債券ファンドそれぞれと全世界株式との組み合わせでも概ね想定通りであることを確認し、この3つのファンドを組み合わせて定額積立とした場合には、年度初めに投資する年次積立がその年度の12カ月に分けて投資する月次積立よりも効果が高いとの検証結果を得た。ただし、それは計測期間中の好調な市場環境に基づくものであり、市場には好不調の波があると信じる筆者はむしろ月次積立を選択したいとの意を強くした。今回は、これまでの検討結果を踏まえた結論と今後の課題について整理し、本稿全体を総括する。
9. 結論と今後の課題
【結論】
3つのファンドに、同一額で投資し、月次積立を行う筆者の秘策は、「機関投資家向け運用と比較した個人投資家向け運用の『理想像』」で述べた各ポイントに準拠していると言ってよい。
米国のオリジナルETFを用いて過去に遡って試算すると、月次積立よりも年次積立の方がよく見えるが、その差は致命的といえるほどではなく、そもそもこの間、市場が長期上昇相場となったことに起因する。
市場には好不調の波があると強く信じる筆者には、むしろ月次積立を選択する動機づけとなる。
とはいえ、筆者の秘策がトレンドを持った上昇に弱いことは明らかだ。悩ましいところだが、筆者としては、この点は割り切り、既に積立投資した分の上昇メリットは得られていると自らに言い聞かせ、万一下げに転じた場合にこそ、下げ局面で分散投資する月次積立のメリットが発揮できると考えるしかない、と思っている(ただし、これは筆者の主観に過ぎない。残念ながら、過去はトレンドを持った下げ局面がないため、今後の課題と位置付けざるを得ない)。
【今後の課題】
上記次第はあるが、筆者の秘策に弱点や課題があることも明らかになった。
これまで述べてきた順にざっと挙げると、次の通りだ。
・ハイイールドは通貨ヘッジなしとすべきではないか
・下げ局面で投信の持値改善のためのリアルタイムの買い下がりが可能なのか
・過去のETFのデータを用いた検証が現実の世界で当てはまるのか
・その検証では、上昇トレンドでは月次積立が年次積立に劣後することが分かったが、では下落トレンドでは優位なのか
・同じく、検証では、米国超長期国債のマイナスをただ傍観するとの前提であったが、それ以外に手はないのか、その要因となったインフレ対応は考えなくともよいのか、である
これに付け加えるとすれば、
・3つのファンドへの等金額投資が正しいのか
・上昇著しい日本株への投資は全世界株式で十分か、といったところである。
いずれも簡単に結論を導き出せるテーマではなく、実際の投資成果を見ながらの検証が必要となる。
ただ、ここで、2つの課題にのみコメントしておく。
まず「3つのファンドへの等金額投資が正しいのか」に関し、等金額投資を原則とするが、状況によって柔軟な適用を検討する必要があると考えている。過去データを用いた検証でも、金利上昇局面での米国超長期国債は大きくマイナスとなり、5年間程度では解消しない可能性が示唆されている。シニアの端くれである筆者に5年以上を掛けてその回復を待つ余裕はない。
今考えているのは、過度の金利低下(例:米国10年国債で2%)では、米国超長期国債の投資は控え(場合によっては既投資分の売却も含む)、過度の金利上昇(例:米国10年国債で5%)では米国超長期国債投資を積極化(場合によっては他のファンドの購入資金もこれに充当する)、というアプローチだ(2%、5%には筆者なりの根拠があるのだが、長くなるのでここでは割愛する)。
また「上昇著しい日本株への投資は全世界株式で十分か」については、もちろんそうではない。とはいえ、筆者は、日本株には、過去何度も煮え湯を呑まされてきたこと、非NISA口座で少額ながら日本株の投資ポジションがあること(リーマンショック後の2009年に実行したものの一部がこれだ)から、現時点で、新NISAで組み込むつもりはない。もし今後、日本株の安定成長が持続的に見込まれると確信が得られた場合には組み入れを考えるであろうが、その時は、おそらく通貨ヘッジ付米国ハイイールド社債ETFを止め、代わりに日本株高配当ETFを組み入ることになるのではないか、と漠然と考えている。
その他の課題に関しては、上記アプローチを一定期間試行した後に、振り返りの形で、読者の方々にその成否も踏まえて、課題への対応をお話することをお約束して筆を置くことしたい。