金融政策正常化に踏み出す日銀の次なる一手は

日本の状況を見ると2024年度の経済成長率は0%台半ばの見通しですが、それほど減速感はありません。22~23年度はコロナによる落ち込みからの反発があったからです。日本の潜在成長率が0%台半ばであることからみても、それほど悪い数字ではないでしょう。

国内投資家のみならず世界からも注目される日銀の動向ですが、マイナス金利から脱却する前にイールドカーブ・コントロール(YCC)の撤廃を考える必要があります。これに関しては、2022年来から柔軟化を進める中でもはや形骸化しており、次なる正常化の一手はマイナス金利解除となるでしょう。

そこでキーワードになるのが物価と賃金の好循環なのですが、どのような状況になればそれが達成されたと日銀は判断するのでしょうか。昨年のCPIコアのインフレ率は平均3%に達し、一見するとインフレ目標の2%を超えています。しかし、その3分の2は円安や原材料価格高騰が要因の食料品の値上げによるもので、これでは好循環とはいえません。

国民目線でわかりやすい好循環は実質賃金がプラスになることです。現在、名目賃金はプラスですが、それ以上の物価上昇によって実質賃金はマイナスが続いています。昨年の春闘では30年ぶりの大幅な賃上げがあったはずですが、名目賃金はそれほど伸びていません。よい人材を採用するために表向きは基本給を上げたものの、その分ボーナスを抑制している企業が少なくないからです。それに加えて、労働時間の規制強化による残業代の押し下げ圧力もあります。今年の春闘賃上げ率が4%を大きく上回れば、年内にも実質賃金がプラスに転じる可能性もあります。

日銀がマイナス金利解除に動けるもう1つの理由は、実体経済への影響が限定的なことです。そもそも利上げが経済に影響を与えるのは、短期プライムレートが上がることで、住宅ローンや企業融資の金利が上がるからです。しかし、マイナス金利導入時に短期プライムレートは下がっていないので、解除しても短期プライムレートには変化がないため実体経済にも影響はそれほどないと言えます。

そもそも、マイナス金利導入のきっかけは円高リスク軽減ですが、今や円安が行き過ぎていますから、解除のハードルは日銀にとってそこまで高くないでしょう。しかしその先の追加利上げになると、短期プライムレートも上がると予想されるので、年内は難しいと思います。実質賃金はそこまで伸びないでしょうし、欧米が利下げサイクルに入る中で日本だけが利上げを行うという判断もとりづらいからです。