ピムコジャパンリミテッド
エグゼクティブ・バイス・プレジデント
覚知 禎 氏
――世界各国で利下げ開始のタイミングが話題になる中、日本は金融緩和を維持しつつもYCCの修正を進めてきました。これまでの日銀の金融政策をどのように評価していますか。
2023年は新総裁となった植田和男氏が、黒田東彦前総裁から引き継いだ金融政策を着実に進めたフェーズだったと思います。具体的には7月にYCCを柔軟化し、10月にはYCCのターゲットである1%を「目処」として多少の上振れを容認するよう変更しました。日本の長期金利は足元で1%を大きく割り込んでいるため、事実上YCCは機能していない状態となっています。
これまでの植田日銀の金融政策を巡るポイントは2つあるでしょう。1つ目は、利回りの人為的なゆがみや日銀の国債保有額の増加など、マーケットにさまざまな「副作用」を及ぼし得るYCCを真っ先に形骸化させたことです。2つ目は、一連の施策を進める中でマーケットのボラティリティが必要以上に高まらないよう抑えた点です。いずれも非常にうまく立ち回ったと言えるのではないでしょうか。
また日銀が市場との対話をこれまで以上に重視するようになったと感じます。インタビューや公表資料などを通じて日銀の政策メンバーなどから発される情報の質が上がり、情報の受け手であるマーケット参加者がそれを市場に織り込みやすい環境になってきました。
以上のように、YCCの形骸化や市場との対話促進により、植田日銀はマーケットが機能しやすいプロセスを作りました。今後進めると見られる金融政策正常化への「布石」を打ったと言えるでしょう。
――正常化への「布石」を打った日銀は、24年はどのようなプロセスで進めていくでしょうか。
1月の日銀決定会合後のインタビューで植田総裁は、今後の動向を示唆する重要なポイントを挙げました。具体的には、①マイナス金利の解除はワンオフではなく正常化の一環として行う、②正常化は緩やかなプロセスとスピードで行う、の2点です。
植田総裁の示唆したポイントを踏まえると、大方のマーケット予想と同じく、春闘における賃金伸び率の上昇を前提として4月までにマイナス金利を撤廃すると思います。そしてマイナス金利撤廃後は、政策金利や無担保コールオーバーナイト物金利が若干プラスの水準で推移していくような形になるでしょう。
また形骸化したものの依然として残り続けているYCCや、物価上昇率が2%の目標値を超えるまで金融緩和を継続する「オーバーシュート型コミットメント」といった金融緩和政策に残された「宿題」についても、マイナス金利撤廃のタイミングで手を入れるのではないかと思います。長きにわたる金融緩和で膨らんだ国債買い入れ額の残高低減も目指すでしょう。
――日銀がシナリオ通りの政策修正を行うとすると、国内の金利水準はどの程度になると予想しますか。
日銀が政策修正に着手すれば、当然ながら金利は上昇圧力がかかりやすい局面になると思います。
とはいえ金利の上昇幅はある程度限られるでしょう。その要因としては、まずグローバル経済全体が失速しつつあることが挙げられます。また日銀が国債買い入れ額の低減に着手したとしても、これまで国債保有額を減らしてきた銀行セクターなど最終投資家の需要が戻ってくると見込まれることも、金利上昇圧力を一定程度削ぐ要因になると思います。具体的に予測するのは難しいですが、10年金利だと期待も込めて1.0%くらいに落ち着くのではないでしょうか。