GDPは増えても金額が小さい

内閣府によれば、公共投資の乗数効果は1.08なので、公共投資の予算を1兆円増やせば、乗数効果でGDPは1.08兆円増えることになる。ただし、1.08兆円の乗数効果のうち1兆円は公共投資の増加分であり、派生的に増えたGDPは800億円に過ぎないことには留意が必要だ。

つまり、政府が総需要を増やせば、それが呼び水となって民需も誘発されることが期待できるものの、その額は小さいのが現状なのだ。

政府予算の乗数効果が発揮されるには、前年度よりも予算規模が大きくなければならない。

今、乗数効果が2あるとき、前年度の予算規模が100だったとする。今年度は緊縮予算が組まれ予算規模が80になったとする。このとき、今年度の予算規模は前年度より20だけ縮小しているので、乗数2×予算縮小額20=40だけマイナスの乗数効果が働き、同額だけGDPが前年度より縮小するマイナス成長に陥ってしまう。

つまり、次の年度の当初予算が前年度の予算総額を超えない限り、マイナスの乗数効果が働いてしまい、GDPが縮小してしまう。

このように、当初予算では厳しめに査定されたとしても(それでも過去最大を更新し続けてはいるが)、政府支出がマクロ経済に与える効果を見る際に重要になるのは、前年度の当初予算に補正予算を加えた総予算額に対する今年度予算の規模である。

より大きな乗数効果を生むためには、当初予算だけでは力不足なため、ブーストをかけるためにも補正予算の編成が必須であり、しかも前年度の補正予算規模を上回らない限り、乗数効果が発揮されなくなってしまう。

年中行事化する補正予算

まとめると、予算の乗数効果がきちんと発揮されるためには、いったん引き上げられた予算総額をそれ以降も維持するか、拡大させていく必要がある。

もちろん、予算の乗数効果により、景気がいったん上向き順調に力強く回復していけば、それ以降は予算総額を少し絞ったぐらいでは景気回復の足を大きく引っ張ることもない。だが、近年の日本のように民間消費や企業の設備投資に力強さを欠く場合、予算総額を元の水準に戻したり、削減したりすると、またたく間に景気が失速し、予算はむしろ景気の押し下げ要因になってしまう。

そうであるからこそ、予算規模は毎年過去最大を記録し続けなければならず、年度途中に補正予算が組まれるのが年中行事化しているのだ。