懸念されるトルコ・リラの波乱の展開
問題は、エルドアン大統領が再選されたことにより、再びトルコ・リラが波乱含みの展開になるのではないか、という懸念があることです。
決選投票前の5月26日に、第一生命経済研究所から「トルコリラは『行くも地獄、戻るも地獄』の様相を呈する可能性」というレポートが出されました。
現職エルドアン大統領が再選されても、対抗馬である野党統一候補のクルチダルオール氏が当選しても、トルコ・リラにとっては良い結果にならないだろうという内容です。
エルドアン大統領が再選された今、トルコ・リラはどうなるのでしょうか。
同レポートの執筆者である主席エコノミストの西濱徹氏によると、「与党AKP(公正発展党)内で先行きの経済政策の方向性を巡って、金融政策面で緩やかな利上げ路線へ、財政政策面で公的支出や補助金による的を絞った支援を志向するなど、エルドアン政権が採ってきた方策と異なる路線への転換も含めた協議が行われているとされる。しかし、エルドアン氏自身は同協議に関わっていないとされており、仮にエルドアン氏が決選投票を制して3期目入りを果たした場合にそうした路線転換が現実化するかは不透明である」としています。
これまでエルドアン大統領は、「金利の敵」を自認してきました。
どういうことかと言うと、「低金利にすればトルコ・リラ安が進み、トルコの輸出競争力が高まるから貿易収支が黒字化する」「低金利にすれば国内の投資意欲が高まるから、経済は成長する」というロジックなのですが、問題はトルコ国内の物価水準が大きく上昇していることです。
トルコの中央銀行が目標としているインフレ率は+5%ですが、昨年は一時的に+80%を超える場面もありました。直近、4月時点のインフレ率は+43.68%まで落ち着いてきてはいるものの、それでも中銀目標からすれば大きく上振れしています。
本来、インフレが大きく進んでいる時は、金利を引き上げ、かつ財政政策も緊縮型にして物価が落ち着くのを待つのがセオリーですが、エルドアン大統領が採っている金融政策・財政政策は、経済学のセオリーとは全く逆のものです。
昨年から世界的にインフレが加速し、多くの中央銀行は利上げを行ってきましたが、そのなかでトルコ中央銀行は、昨年8月から4回にわたって利下げを実施してきました。
その結果がどうなるのかと言うと、トルコ・リラ安の加速です。
基本的にインフレ国の通貨は売られます。なぜならインフレが進むほど、相対的に通貨価値が下がっていくからです。前述したように、トルコのインフレ率は中銀目標を大きく上回っており、その点でトルコ・リラ安が加速するのは必然と言っても良いでしょう。
そのうえ、同レポートにもあるように、エルドアン大統領の再任により、与党AKP内で検討されていた「緩やかな利上げ路線」と「財政政策面で公的支出や補助金による的を絞った支援を志向」がどうなるか分からないとなれば、再びインフレ率が高まり、さらなるトルコ・リラ安につながらないとも限りません。