外貨準備高以上のドルは売れない、自国通貨買い介入の限界も

基本的に、自国通貨買い介入は不利です。それも対米ドルでの自国通貨買い介入ともなれば、なおのことといっても良いでしょう。

円売り介入を行う場合、外国為替市場で売る円を調達する必要があります。どうするかというと、財務省が一般会計とは区分された「外国為替資金特別会計(外為特会)」を通じて、「外国資金証券」と呼ばれる政府短期証券(FB)を発行し、それを全額、日銀が引き受けます。これによって調達された円資金が、円売り介入を行う際の原資になります。

そして、実際に円売り介入を行った結果、外国為替市場で購入したドル資金は、全額が外貨準備に組み入れられます。つまりドル買い介入を行った分だけ、日本の外貨準備高が膨らむのです。

逆に、自国通貨である円を買う介入を行う場合は、政府が手持ちのドルを売って、円を買うという流れになります。そして、このオペレーションを実施するために必要なドル資金は、円売り介入で外貨準備に蓄積されたドル資金が用いられます。
2022年8月現在、日本の外貨準備高は1兆2920億7200万ドルあります。1ドル=145円で計算すると、約187兆3400億円です。

とはいえ、その内訳を見ると、米国国債が大半とみられる証券が1兆367億8100万ドルもあります。外貨準備をフル活用して円安に歯止めを掛けようとしても、恐らく米国国債を積極的に売却することは出来ないでしょうから、米国国債以外の資産で保有されている外貨準備から、円買い介入を行うための原資が捻出されると考えられます。

ちなみに、外貨準備高のうち「預金」に該当する金額は、1361億1000万ドルであり、これが円買い介入の原資だとしたら、それほど余裕のある話ではありません。いずれにしても、外貨準備高以上のドルを売ることはできないので、自国通貨買い介入には限界があるのです。

過去、自国通貨買い介入に失敗したケースとしては、1992年に起ったイギリスのポンド危機が挙げられます。当時、欧州通貨統合への布石としてEC(欧州共同体)が、加盟国同士の為替レートを事実上の固定相場にしようと考え、EMS(欧州通貨制度)とERM(欧州為替相場メカニズム)の導入を進めました。その結果、ポンド相場がイギリス経済の実力に見合わない水準まで上昇し、その歪みに気付いた投機筋によって、一気にポンドが売り崩されたのです。

それでも当時、イギリスはERMに止まろうとしていたので、必死になって自国通貨であるポンドの買い介入を実施したのですが、最終的にはEMSへの参加を諦め、変動相場に移行していきました。自国通貨買い介入がいかに難しいかの、ひとつの参考事例といっても良いでしょう。