黒田総裁の発言で波紋を呼んだ家計の値上げの実態

日銀の黒田東彦総裁が講演で「日本の家計の値上げ許容度も高まってきている」と述べたことが、大きな波紋を呼びました。あまりにも批判が大きく、翌日には発言を撤回する事態になりました。

この発言の根拠となったのは、すでに多くのメディアなどで報じられているように、東京大学大学院の渡辺努教授のチームが5月に行った、「5カ国の家計を対象としたインフレ予想調査」によるものです。

このアンケート調査には、「あなたがいつも行っているスーパーで買っている商品の値段が10%上がったとします。あなたならどうしますか?」という設問がありました。この設問に対して「その商品をその店で買うのをやめる。その商品を値上げせずに売っている別な店を探す」という回答比率が、2021年よりも2022年の比率が低かったのです。そのため日銀は、「値上げを受け入れる気運が強まっている」と解釈したようです。

ただ、この設問に対する他の回答で、もっと注目するべきなのは、「その商品をその店で買い続ける。ただし、買う量を減らしたり、買う頻度を落としたりして節約する」という回答比が逆に、2021年の数字に比べて、2022年は増えたことです。

商品を購入する店を変えることなく商品を買い続けるものの、買う量や買う頻度を抑えるわけですから、物価上昇を許容したというよりも、「ひたすら我慢している」という方が、より適切であると考えられます。