上場維持基準を満たさない企業の経過措置も

一方、プライム市場を選択しながら上場維持基準に適合していない企業は296社だった。流通株式時価総額や流通株式比率で基準を満たさない企業が多かった。希望する市場の基準不適合であったとしても基準適合に向けた計画書を開示すれば、経過措置として当面現行の上場維持基準が適用される。開示した計画書に従って、企業は成長戦略の実施によって企業価値を向上する必要がある。また政策保有株の縮減や自社株の消却等による流動性改善にも取り組まなければいけない。

この経過措置期間は当面とされており、具体的にどの程度設けられるかはまだ決まっていない。東京証券取引所は計画書を提出した企業の動向を踏まえて、検討した上で今後決定する見込みだ。ただ流通株式時価総額の適合に向けた計画期間は企業によってばらつきが目立つ。2年以上3年未満が83社と一番多いが、3年以上4年未満は46社、4年以上5年未満は33社、5年以上は20社となっている。経過措置が永遠に続くことはないが、東京証券取引所の方針は未定だ。

プライム市場に移行する企業が東証1部の約8割を占めることや、上場維持基準を満たさなくても当面の間は経過措置期間が設けられることから、東京証券取引所による市場再編の効果に疑問を持つ厳しい声が多いといえる。

これまでを振り返ると、2013年に東京証券取引所と大阪証券取引所が株式市場を統合した際、上場会社や投資家に影響が出ないようにマザーズやジャスダックを維持してきた。それによって市場区分のコンセプトが曖昧といった課題が残ったていたため、この点には一定の区切りが付きそうだ。

海外の証券取引所との競争に打ち勝ち、世界の投資家から選ばれることで投資マネーを日本へ呼び込むのが狙いというが、実現可能性は未知数。例えば米国と比べても、東証1部や4月から移行するプライム市場の時価総額の規模は小さく見劣りするなど課題は山積みだ。投資家からは市場再編で最上位市場の企業数を絞りこむことによって、投資しやすくなるという期待があったが、市場再編を率いる東京証券取引所は、市場再編そのものが東証1部からプライム市場へ移行する企業を減らすといったことが目的ではないとしている。だが、企業の新陳代謝を促し、真の企業価値の向上を目指すためにも、改革ののろしを上げる市場再編が妥協の産物とあってはならない。

執筆/招福亭たぬき
金融、経済ライター。マクロ経済や金融全般の執筆に定評がある。仕事を通じ金融の面白さに気づき、日々勉強中。最近ではつみたてNISAやiDeCoなど自身の資産形成にも関心を広げている。将来、活動の軸をYouTubeやInstagramに移し、いつかFIREを実現したい…と夢見る